「このように妄想の突飛さと当人の穏やかな常識人ぶりとのあいだに乖離が生じているときには、精神医学はたちどころに歯切れが悪くなってしまうのである。少なくとも、狂気という概念を疾病という領域に位置づけることが困難となり、診断や治療とはレベルの異なるところで『文学的な』狂気が立ち上がってきてしまう。つまり病気としての狂気ではなく、異様なストーリーや不可解な主張の代名詞としての狂気のみが立ち上がってきてしまう。」