
kasu.
@11uyksm
2025年10月9日

静かな雨
宮下奈都
読み終わった
借りてきた
単行本
記憶が残らないこよみと、そんなこよみと共に居ようと決めた行助。
妙にリアルな関係性の日常を覗いた様な物語に時々胸をぎゅっとさせられる。
物語全体がタイトル通りのゆったりとした穏やかさ。
街並みや自然の表現が個人的にとても好きだった。
【浮かない。つまらない。腹も減らない。こよみさんのたい焼き屋が閉まって、四月の空は色をなくした。】(P.32)
この方の自然×心情の合わせ技で表現する技術が凄い。
気持ちも風景も頭の中でイメージができて、2度美味しいと言うかなんと言うか(語彙力)
【「あなたはあなたにとっての世界を立ち上げるために、学校に行ってるのではないかな」】
【「もしもまったく興味を持てないんだったらしかたがない。〜だけど、面白いと思えるものがあったら、それが世界の戸口なんだよ。あなたにとっては突破口かもしれない。いつでも開ける。そこからあなたは外に出られる」】(P.58)
高校生から相談をされたときのこよみさんの返し。
素敵すぎない?って思って付箋を貼った。私ももし子供に同じようなこと言われたら、この言葉を授けたい。
【「毎日の生活の中での思いで人はできてるんじゃないかと思う」】(P.82)
「人間ってなんでできてると思う?」と聞いた行助。すかさず「おっぱい」と答える姉も『母親だなぁ』と思うけど、結局は「記憶」だと言った。でもこよみには記憶が残らないから、『生きていく甲斐がないみたいじゃないか。』と嘆く。姉から逆に聞かれた時に「思い」と答えたけど、本当は「思い出」って言いかけたよね?絶対そうだよね?思い出も記憶も同じだもんね…
言いかけて気付いた行助。思いに変換することで自分を納得させているような気がして切なかった。
【「あんた、若い人の可能性を摘むようなことを言っちゃいけないよ。若い人には無限の可能性があるんだからね」】(P.87)
【どうして若い人には可能性があると、そんな乱暴なことを平気で言えるのだろう。確かに、何者かになる可能性もあれば、ならない可能性もある。銀行強盗をする可能性もあるし、しない可能性もある。そういう意味では無限かもしれない。】(P.89)
高校生の進路相談で大学へ行くか行かないかの話の途中でおばさんが口を挟んできた場面。大学へ行くことが必ずしも未来の可能性の選択肢を広げる術ではないし、むしろ高卒で働きに出た方が広がる可能性だってあると思うのに…これだから老人は🤷♀️と老人に厳しめな私。昔の人はきっと学歴が全てで表面的なレッテルしか見ないんだろうね。でも世の中蓋開けてみてみたら、無職や事件を起こす人って大卒だったりお堅い仕事してたりするよね…
行助がどうして…と思う気持ちがよく分かる場面だった。
【「ピアニストになるつもりはなかったから。ピアノの試験をされたり、順位をつけられたりするのは嫌だと思ったの。」】(P.90)
高みを目指そうとしてる訳でもなく、趣味で楽しくやりたいのに習うと必ず試験や順位で甲乙を付けたがる。勉強もそう。私もこれが嫌で中学からは学校へ行かなくなったし、こよみさんのこの言葉が当時の私の気持ちを明確にしてくれた気がした。
【明け方の雨に静かに泣いていたこよみさんを僕は忘れない。】(P.106)
タイトルの静かな雨の意味がここにギュッと詰まっているような気がして、最後の最後に来た好きな場面。
物語全体が波のない穏やかな湖のような感じでゆったりと流れる日常。ちょっとした問題もあるけれど、お互いがいれば別に大したことないんじゃないかと気付く行助がとても頼もしくみえた。



