やえしたみえ "ヘッセ詩集" 2025年11月9日

ヘッセ詩集
ヘッセ詩集
ヘッセ,
ヘルマン・ヘッセ
ヘッセが若い頃の詩はやはりロマンチック。彼の書く小説と同じで、後期へゆけばゆくほど、人生、魂の泥濘へ潜り込んでゆく。ヘッセの作品との思想的な繋がりも感じられるので、ヘッセの小説をひととおり読んでから読むと味わい深いかもしれないし、逆に、この詩集を読んで、刺さった時期の作品から読んでいくのも面白いかも。 いくつか抜粋しておすすめする。 『処女詩集』(1902年)とその前後 より 『ローザ嬢』 ──私は知っている! だが、あなたは私を知らない。 非常に短い詩。ローザ嬢は歌手か?舞台の上の憧れのあなたを私は知っている、愛している、だが、あなたは私を知らない。コンテンツ社会の現代において共感できる人は多いのではないか。 『孤独者の音楽』(1915年)とその前後 より 『あなたを失って』 ──あなたの髪をまくらにできぬことが、こんなにもつらいものとは思わなかった。 ロマンチックな失恋の詩。親密になった愛する人を失った経験のある人はすべて共感できるはず。ひとり寂しい孤独な夜の情景が目に浮かぶ。 『夜の慰め』(1929年)とその前後 より 『祈り』 ──なぜなら、私は喜んで滅び、喜んで死にますが、私はあなたの中でなければ死ねないのですから。 この頃から祈りや信仰に関する詩が増えてくる。この『祈り』は名前のとおり主への祈りで、キリスト者としてはこのまま日々の祈りに取り入れてもいいほど好き。ヨブ記2:10「わたしたちは、神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか。」を思い出す。私も、絶望の中にも神がいることを、全てがあなたの意思であることを示してください、あなたの意思なら悦びであり幸いですが、あなたを信じられないならば全ての苦痛はただの苦痛です!ってよく思う。 紹介は避けておくけどもう少し先の時代に出してる(この本にも載ってる)『イエスと貧しいものたち』も良すぎ。 『新詩集』(1937年)とその前後 『ある幼な児の死に寄せて』 ──うつし世の風と光を味わうのに、一いき呼吸し、一度まなざしを動かすだけでお前は満ち足りたのか。 苦しい……慈愛に満ちた瞳で幼な児の亡骸を撫ぜている老人の姿が浮かぶ。この世界すべてのことをもう知ってしまったから、もうすっかりよく見てしまったから、そうして眠りいってしまったんだね、初期のような柔らかい美しさのある文章だけれども、これは若い頃のヘッセには書けないだろう。年をとり、生と死について深く深く考え底なし沼においても光を見出すほど思索に耽ったこの時期だからこそ詠めたのだろう。素晴らしい。
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