
あんどん書房
@andn
2025年11月12日

読み終わった
@ 自宅
最近、ZINEが分からなくなってきたので。
1960年代〜2010年代の自費出版史を概観する一冊。7割ぐらいが実際の刊行物の紹介になっているビジュアル本であり、フルカラーで書影を見ることができる。年代ごとに章が立てられており、扉にはその時代の作風をざっと俯瞰するような対談が載せられている。また後半には関係者諸氏へのインタビューも収録。
もちろん星の数ほどある自費出版物を網羅するなんて到底無理なので、あくまでお二人の蔵書や知識に基づいた内容にはなっているが、なんとなく時代の雰囲気みたいなのは感じ取れて面白い。
“つまりDIYというのは世界的な高度経済成長の最中に,余暇に楽しむ趣味性の高いモノづくりのことだった。趣味がスタート地点だからこそ画一的な大量生産に抗うものが作れる。[…]大資本に依存し過ぎて潰されないようにする術が“趣味”にはあると思う。選択肢の多様性を広げることが独占への対抗手段だから。”
(P13)
元来のDIYについて、ばるぼらさん。これは健全なZINEづくりマインドのヒントになりそう。昨今の赤字を出さないことを重視する風潮について、野中さんは「チープな贈与文化としてあるZINEのことも忘れないで! って言いたくなっちゃう」(P13)とも。
中村公彦さん・BELENEさん・山川直人さんの鼎談「コミティアという場所/マンガの周縁に在りつづけて」(P217-220)の中に、森博嗣さんが三重大助手時代参加されていた同人誌『JET PLOPOST』の話が出てきている。そのサークルの「東京支部長みたいな感じ」がコミティア初代代表・土屋真志さんだったとか。そんな繋がりもあるんだなぁ。
“「私は店で取り扱うにあたって,見栄えがしっかりしてることをすごく重視してました。手作りのものは本屋として扱いにくいんです。いろんな紙切れが袋に入ってるとかね。重ねられへんし,棚にも差せないし”
誠光社・堀部篤史さんのインタビューより。これはやっぱり、お店側からするとそうだよな〜と思う。逆に言うと独立系書店をフォローするだけでは出会えないZINEも限りなくある。
ZINEという言葉にはまだまだ「最近流行りの」という枕詞がつきがちだけれど、広く見ればもっと歴史はあるはずだよな〜と思っていた。ので、本書でその辺のことを色々と知れたのが良かった。
ポリティカルなもの、音楽的なもの、ファッション的なもの、サブカル的なもの……とそれぞれに歴史があって、デザイン性なんかは今の各ジャンルにも引き継がれているような気がした。
一方で、圧倒的に都会中心の文化だった。70年代以降のタウン誌の流れも、東京のカルチャーに触発されてという部分があるらしいし。そして現代では「タウン誌」っていったら毎月ポストに投函されてる、お店の広告とクーポンが付いてる冊子というイメージしかない。正直広告だけならSNSでもう十分なのだから、あえて紙でやるなら違ったことをやって欲しいな。
自分の納得感の落とし所としては、「自己表現」と「コミュニケーション」のバランスみたいなところを考えるのが良さそうだなと思った。読んでもらう、お店に置いてもらう、売れる……などを追求すると現在の最適解はエッセイアンソロジーみたいになるけど、もっとミニなコミュニケーションでいいのであれば古本市で五部配るでも全然いいわけで。派閥は違えども、そのどちらも「ZINE」と捉えるのに十分な歴史はあるということ。
最近はZINEイベントも細分化してきたので、ここらで「コピー本オンリー」があっても面白いかも。
本文書体:?(分かる方教えてください。本欄に似てるが濁点の処理が違う…。方正黒体には似てる)
装丁・デザイン:山田和寛(nipponia)
イラスト:丹野杏香

