やえしたみえ "火を焚きなさい" 2025年11月19日

火を焚きなさい
火を焚きなさい
nakaban,
山尾三省,
早川ユミ
信仰は異なるけれど、山尾三省とわたしは魂のかたちが近いと勝手に感じている。 わたしは昔から、自らの手で火を焚き土に触れ家畜を世話し、自らの肉を構成するものを自ら生産したいという想いが非常に強い。その根底には、仏教徒で、事業をする傍で畑仕事を好み、毎週末わたしを車に乗せ広い畑につれてゆき農作業をさせた祖父の存在も大きい。ひとつひとつの詩を読むたびに祖父を思い出していたら、味わいきるのに時間がかかってしまった。 どれも素晴らしい詩だったが、『三つの金色に光っているもの』が印象に残った。子供たちに言い聞かせるような(実際に言い聞かせていたのかもしれない)、信仰に生きる親であるものにしか詠めないことば。 『食パンの歌 ──太郎に──』も非常に良い。食パンというひとつのモチーフから鮮やかに映し出される、愛息子が家を出る、その手向に捧ぐ歌。非常に愛と思想が伝わってくる。やはり詩人には思想がなくてはならない。私もいち創作者として、三省のように思想と信仰に磨きをかけそのために生きたいと思った。それと同時に、わたしは資本主義の跋扈するこの世界で、事務員として働くことを選んでもいるし、東京に生まれ東京に育ち食パンにカビを生やしたりもしているし、朝から晩までお金のことを考え、テーマパークを楽しみ、科学を愛している。三省の真似をして生きていくことはできないのだ。 "自己とは世界そのものの姿の別名であるという苦くかつ喜ばしい智慧" "私にあっては依然として自己を習いつつあるのだとも思う。習い続けたいと願う。" 非常に共感できる文章である。私も自己を習い続けたいと願う。めいめいの世界を解き明かすことができるのは己のみである。思想も、信仰も、異なるからこそ、われわれの魂の間にある共通点がひかる。それはすべての人間に偏在する点である。そうわたしは思う。 この本は装丁も良い。山尾三省のことは購入時全く知らずに、一目惚れで購入した。紙質もすばらしい。全てがしっくりくる。芸術的だ。また解説も非常によかった。この本を編んだ方々のセンスと努力は計り知れない。良書。
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