
木村久佳
@kuCCakimura
2025年11月23日
介護未満の父に起きたこと
ジェーン・スー
読み終わった
ステージ4の肺がん、転移して悪性脳腫瘍が判明した母(63)が、サヴァイブ1年を超えました。月でいうと14ヶ月ほど。去年の今頃、2ヶ月超の入院を経て退院したとき、「あれ、秋になってる」と車椅子の母が言ったのを覚えています。
お医者さんや看護師さんなど様々な方が尽力してくださったおかげで、肺がんも脳腫瘍も素人には影すら見えないほど小さくなりました。左半身の麻痺は残っているものの、家の中では問題なく自立でき、外でも杖をつけば歩けるほどに母は回復しています。あーよかった。病気がわかったときの、私と妹の意味のないドライブの回数はたぶん数十回に及んだはず。私と妹以外の誰にも聞かれないあの空間で、「車椅子専用の車にせなあかんか」「介護どうする」「私実家帰るか?」「いやでもあんた出社じゃん」などと、母のこれからと私たちのこれからに頭痛がするほど悩んだものです。今ではすべてが杞憂です。間違えました。今のところ、すべてが杞憂です。
母が回復して何度も思ったことは、たとえ死が迫っても私と母の間の確執はうまいこと埋まったりしないということです。私と母は仲が良くありません。完全に性格が合わない、親子でなければ決して交わろうとしない関係です。同じ環境で育ったのに妹は母とコミュニケーションをとることができていて、血縁であろうと合う合わないはあるのだと思い知らされます。
それでもやっぱり、母に対して「長生きすればいいよ」と思うのは娘としての情だろうし、そのために助けが必要ならできる限り協力するのだから、血縁というのは困ったものです。正直、ここで見限れたらどんなに楽だろうなと思うこともとても多いです。それでも家族をやっているのは、私も意味がよくわかっていません。
それでも私たち血縁者だけではどうにもこうにもできないことが多くなってきました。コミュニケーションの方はとっくに匙を投げて妹に押し付け、私は通院や買い物などの足になるために車を出したり、その他諸々入りような時にお金でどうにか支えるだけです。それでも母の欲望はたまに満たされることはなく、蓋をしていた承認欲求が沸騰すると、誰かにマウントを取らないと気が済まない病にかかるようです。「注射ってね、手の甲にやるのがデフォルトなのよ」とマジでそれソースどこ?という謎知識を披露し、それでも嫌な顔ひとつせず「そうなんですね!」と軽やかな笑顔でスルーしてくれる、素晴らしい看護師の方々がいなければどうなっていたことか。リハビリのたびに「頑張り屋さんですね」と励ましてくれる先生方の存在なくして母のみならず家族もここまで来れませんでした。本当にご迷惑をおかけしております。あなた方のおかげで母のプライドは大コケせずに保たれています。
これからも良くなったり悪くなったりを繰り返す母に、まだ生きててねと思いながら、付き添うのだと思います。


