RNオンリー・イエスタデイ "どうせそろそろ死ぬんだし" 2025年3月5日

どうせそろそろ死ぬんだし
RNオンリー・イエスタデイ
@onlyyest
### 「本屋の幽霊」 「ここ、私の席なんだけど」  初めて話しかけられたとき、俺は本を読んでいた。顔を上げると、ロングヘアの女が立っていた。 「いや、別に名前とか書いてないし」 「でも、いつも私が座ってるから」  勝手に決めるなよと思ったが、妙に気になってしまい、その日から彼女と話すようになった。 「私ね、幽霊なの」 「はいはい、そういう設定ね」 「本当だよ。私、この本屋から出られないんだ」  彼女は何度も同じ本を読んでいた。俺たちは毎週のようにここで会い、本の話をした。  気づけば、彼女がいない日は、俺は本を読まなくなっていた。  *** 「この店、閉まるんだって」  俺がそう言ったとき、彼女は珍しく黙った。 「本屋がなくなったら、幽霊のお前はどうなるんだ?」 「……わかんない」 「なら、一緒に外に出るか?」  冗談のつもりだったのに、彼女は悲しそうに笑った。 「私はここにしかいられないの」  俺は、それが本当なんだと悟った。  それからしばらくして、彼女はいなくなった。  ***  閉店前日の夜。俺は最後に本屋を訪れた。  読書スペースの椅子はもう片付けられ、棚の本もほとんどなくなっている。  でも、一冊だけ。  彼女がいつも読んでいた本が、ぽつんと残っていた。  俺はそれを手に取った。表紙をめくると、ページの端に、小さな文字が書かれていた。  **「私、外に出られたよ」**
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