RNオンリー・イエスタデイ
@onlyyest
### 「本屋の幽霊」
「ここ、私の席なんだけど」
初めて話しかけられたとき、俺は本を読んでいた。顔を上げると、ロングヘアの女が立っていた。
「いや、別に名前とか書いてないし」
「でも、いつも私が座ってるから」
勝手に決めるなよと思ったが、妙に気になってしまい、その日から彼女と話すようになった。
「私ね、幽霊なの」
「はいはい、そういう設定ね」
「本当だよ。私、この本屋から出られないんだ」
彼女は何度も同じ本を読んでいた。俺たちは毎週のようにここで会い、本の話をした。
気づけば、彼女がいない日は、俺は本を読まなくなっていた。
***
「この店、閉まるんだって」
俺がそう言ったとき、彼女は珍しく黙った。
「本屋がなくなったら、幽霊のお前はどうなるんだ?」
「……わかんない」
「なら、一緒に外に出るか?」
冗談のつもりだったのに、彼女は悲しそうに笑った。
「私はここにしかいられないの」
俺は、それが本当なんだと悟った。
それからしばらくして、彼女はいなくなった。
***
閉店前日の夜。俺は最後に本屋を訪れた。
読書スペースの椅子はもう片付けられ、棚の本もほとんどなくなっている。
でも、一冊だけ。
彼女がいつも読んでいた本が、ぽつんと残っていた。
俺はそれを手に取った。表紙をめくると、ページの端に、小さな文字が書かれていた。
**「私、外に出られたよ」**