いずみがわ "黒龍の柩(上)" 2025年12月11日

黒龍の柩(上)
Two men look out through the same bars:one sees the mud, and one the stars. フレデリック・ラングブリッジ「不滅の詩」 この土方は星を見上げる土方だ。 大河ドラマ「新選組!」で山南敬助は脱走前に足に絡みつく新選組の、自分の辛い苦しい現実からふと目線を上げ、日本の未来について思いを巡らせる。そこで坂本龍馬と交わした言葉が薩長同盟のヒントとなり時代は大きくうねり始める。ドラマの創作とはいえ、大好きな登場人物が蝶の羽ばたきを起こした展開に胸が熱くなった。一方、彼が殉じた組織ではその後も苛烈な粛正の嵐が吹き荒れる。法度によって新選組を締め上げ、近藤勇をてっぺんに押し上げる。その目的のために奮闘する土方の視界には夜空の星が映っていただろうか。 本書ではなんと土方が、山南とふたり並んで星を見上げている。というかぶっちゃけ近藤に対してよりも友情感じてる。双子とまで思っている。 (それが無理!!!という人には無理な小説だろう。) とにかく本書の土方歳三はマブダチ山南敬助との友情を胸に、彼が死の間際に指し示した空の星を追いかけてゆく鬼つええ男だ。 というか浮いた話がマジで無い。「組!」で食傷気味ですらあった男女ロマンス要素がゴリゴリ削られ、ずっと「男が男の漢に惚れる…それは愛より重い!」をやっている。明里さんすらいない。俳句も読まない。しかし夢主やん!なオリキャラはいる。どういうバランス??? 幕府側の勝海舟、そして再来年の大河ドラマ主人公小栗忠順が土方と深く関わってゆく。 たとえ今の形の幕府を無くしても徳川家を滅ぼさず、内戦を回避し外国の侵略を防ぎ国を富ませてゆくため、徳川家や旗本が中心となって蝦夷地に新国家を造る。それが勝、小栗、坂本龍馬の目指すところだ。そこに山南に導かれた土方もコミットしてゆく。 しかし彼らのやろうとしていることは、生き残るため富を産むため他者の生きる場所を力で奪う列強の植民地政策と同じだ。「かわいそうな俺たち」とウジウジしながらアイヌが暮らす土地や資源を踏み荒らそうとしている。そのことが下巻で言及されるのかどうかが私にとっては今のところ最大の関心だ。 古今東西物語においてひととひとの道が分たれる瞬間というのは美しいが、上巻ラストの近藤と土方の訣別も例に漏れず、ミュージカルの一幕終わりを見たかのような盛り上がりだった。 近藤は武士として新選組としてどう死ぬかを見つけようと地を見つめ、土方はこの時代をどう生き抜くかを考え遥か北の空に目を凝らしている。 星を見るというのは希望を捨てないだけではなく、生きるために考え続けることなのかな。
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