たなぱんだ "「ほどほど」にできない子ども..." 2025年1月31日

「ほどほど」にできない子どもたち
「ほどほど」にできない子どもたち
ジェニファー・ウォレス,
信藤玲子
この本は、アメリカの中高生とその親が「いい大学に入って、将来は社会的に成功しなきゃ」というプレッシャーに押しつぶされそうになっている現状を描いた一冊。当事者である子どもたちやその親へのインタビューをもとに、彼らがどんな思いで日々を過ごしているのかを掘り下げている。 興味深かったのは、アメリカの研究では「貧しい家庭の子ども」よりも「裕福な家庭の子ども」のほうが、うつ傾向や薬物依存、不安障害の度合いが高い傾向にあること。お金がある分、自由にできることが多いはずなのに、成功へのプレッシャーが強すぎて、それがむしろ子どもたちを追い詰めてしまっているらしい。確かに、うちの大学にいるアメリカ人学生たちも、表面的には楽しそうに振る舞っていても、どこか辛そうに感じることがある。この本を読んで、その裏側をまざまざと見せつけられた気がした。 でも、この本のいいところは、「子どもたちはこんなに苦しんでいるんです」と問題提起して終わるのではなく、中盤以降で「じゃあ、どうしたらこのプレッシャーから抜け出せるのか?」という部分までしっかり考えているところ。とくに、巻末の付録には、「親ができること」「子ども自身ができること」「学校ができること」といった形で具体的なアドバイスが整理されていて、すぐに実践できそうなヒントも多い。例えば、「親は子どもに自分の失敗談を話してみよう」とか「学校は『成功』の形はひとつじゃないことを伝えるべき」といった提案がある。全てが日本の教育環境にそのまま当てはまるわけじゃないけど、参考になる部分は多いと思う。 もうひとつ面白いのが、本の最後に「話し合いのためのテーマ」がついていること。夫婦や親子、学校の授業で「幸せって何だろう?」とか「この本のアドバイスを実践するとしたら、どう生活を変える?」といったことを話し合うための問いが用意されている。単に「こうすればいいですよ」と指南するのではなく、「実際に考えて、話してみよう」と促しているところに、著者の本気度が伝わってくる。 日本とアメリカで受験や競争のスタイルは違うけれど、「学歴や成功を追い求めるあまり、大事なものを見失っていないか?」という問いは、どこの国でも考えるべきことだと思う。 教育や子育てに関わる人はもちろん、プレッシャーに押しつぶされそうな人にも読んでほしい一冊。読後は、ちょっと立ち止まって、自分の中での「成功」や「幸せ」の定義を見つめ直したくなる。
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