犬山俊之 "ナチを欺いた死体" 2025年12月15日

ナチを欺いた死体
ナチを欺いた死体
ベン・マッキンタイアー,
小林朋則
「奇策」を成功に導くあれやこれやの頭脳戦……みたいな話かなと思って読み始めました。確かにそういう部分もあるのですが、実は、それよりも印象に残ったのは、身も蓋もない戦争の現実の断でした。 戦時中に「良質のチョコレートが手に入らない」と嘆く貴族がいる一方、空腹のあまり殺鼠剤を塗った古いパンに手を出して命を落とした者もいる。このタイトルにある「死体」になった人物も戦争がなければ死なずにすんだかもしれない。彼も「ほかのことで手いっぱいの戦時社会の隙間から、いとも簡単にこぼれ落ちてしまった」一人なのです。 また、スペインでのスパイの諜報戦と言っても、結局のところ賄賂のばらまき合戦でしかなかったり、シチリア島への上陸作戦の兵站に記されているのが、糧食660万セット、航空機5000機、伝書鳩5000羽とその飼育係、それとコンドーム14万4000個だったり。あーあ。 またこんなうんざりするような世界に戻るのはごめんです。 「訳者あとがき」にある小林朋則氏の文章を紹介しておきます。引用: 「(ドイツ側が)これほど見事にだまされた理由はいくつかあるが、イギリス海軍情報部部長ゴドフリー提督の言う「追従癖」と「希望的観測」も、大きな要因であった。この二つが組織にとっていかに致命的かを知ることは、二十一世紀を生きる日本人にとっても意味のあることではないだろうか。」▼
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