
読書日和
@miou-books
2025年12月27日

台湾鉄路千公里
宮脇俊三
読み終わった
台北の鉄道博物館で展示されていた“宮脇大先生”の書籍を見かけ、中国語版が土産物屋で売られているのを横目に「帰国してからじっくり読もう」と心に決め、図書館で借りてきた一冊。
本書は、1980年6月2日から8日まで、宮脇先生が台湾鉄道を一周した旅の記録。その年に北廻線が開通したことをきっかけに訪台されたとのことで、まだ南廻線も未開通、もちろん新幹線も存在しない時代。いったいどんな鉄道旅だったのか。
驚いたのは、当時は年配層を中心に日本語がよく通じていたこと。(日本の統治時代の事は知っていましたが、それにしても戦後35年・・)そして先生が現地で見聞きした言葉を実に丁寧に記録していることです。「逢週日及例日停駛」という表示を正確に読み解く場面など、帝大生としての教養と観察眼に感服しました。
阿里山森林鉄道の章では、先生が阿里山を初めて知ったのは小学校の国語教科書からであり、鉄道として意識したのは中学の地理の授業だったと綴られています。戦前教育の一端が垣間見え、時代の重なりを感じずにはいられません。
なじみ深い台北/雙聯駅が、いまは捷運の駅である一方、当時はまだ台湾鉄路の駅だったこと。北廻線開通により支線扱いとなった「南聖湖」駅が、その2年後には「新蘇澳」駅へと改称されたこと。花蓮〜台東間にまだ寝台列車が走っていたこと――いまはもう失われた情景の数々に出会えるのも、本書の魅力です。戒厳令下の台湾でありながら、どこかのどかな旅情が漂っているのも印象的でした。
また、宮脇先生の“特技”として、速度計を見ずに走行速度を推測できるという逸話も登場します。10メートルレールの継ぎ目音を数えて速度を計算するというもので、現代の連続溶接レールでは失われた技術ですが、鉄道旅の感性が凝縮されたエピソードだと感じました。
昭和50年代の台湾鉄路の空気を、紙の上で追体験できたことに感謝したくなる一冊。いまでは見ることのできない旅の時間に思いを馳せつつ、読後もしばらく余韻に浸っています。
