不眠屋框 "チャールズ・デクスター・ウォ..." 2025年10月31日

チャールズ・デクスター・ウォード事件
チャールズ・デクスター・ウォード事件
H・P・ラヴクラフト,
南條竹則
個人的に2025年に読んだ小説No. 1。 ラヴクラフトは生前、この作品の出来を恥じたのか誰にも原稿を見せなかったというが、なんて勿体無いことをしたのだろうと思わずにいられない。 まず構成が見事。 冒頭で、タイトルに名のあるウォード青年が、入院中の病室から霞の如く消え去ったことが伝えられる。 そこから物語は彼、チャールズ・デクスター・ウォードの過去を遡り、まずは幼少期の優しい思い出や、徐々に成長しこの世の事象に深い関心を持つまでが描かれる。 このあたりはとにかく微笑ましい。 しかし青年となった彼の興味は、次第に危険な方向へと向かい、屋敷の屋根裏で怪しげな実験に耽るようになる。 彼の家族も縁者も警告を発するが、それを煩わしく思った青年は他者から距離を置き、孤立を深めていく。 そこへ博士を名乗る奇妙な協力者まで現れ... 物語は一貫してチャールズ・デクスター・ウォードの生涯を描くが、由緒あるアメリカの名家や都市が舞台となる点で歴史小説のようでもあり、魔術まがいのものが登場する点でファンタジーであり、また出来事が遥かな時空間にわたる点でSFのようでもある。 どのジャンルに凝り固まることもなく、たった1人の愛すべき青年の行動を通し、その興味関心が禁忌の領域へと踏み込んでいくさまが大変近い距離で丁寧に描かれる。 物語の終盤では「探偵役」を青年の主治医が務めるが、この謎解きには身の毛がよだつと同時に、青年の経験したであろう恐怖を読者が追体験できるようになっている。 読み終わった時、そのオチが冒頭に綺麗に戻ってくる構成に圧倒され、思わず「これは凄い」と声が出てしまった。 多少怖いものが大丈夫な方、特に古めの小説が好きな方にはぜひ読んでほしい。 この賛辞を著者本人に伝えられないのがあまりにも歯痒い。
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