
橘海月
@amaretto319
2020年7月31日

みかんとひよどり
近藤史恵
読み終わった
この著者のシリーズや類似作を引っくるめて、一番惹かれるのは「食べる」テーマの作品なのかもしれない。食べることは生きることだし、食べ物を掘り下げるのは生き方を掘り下げる行為にも通じるから。
主人公潮田をはじめ、近藤史恵は悩める主人公の描写がものすごく上手い。その巧さ故に、ともすると悩んですらいなかったこちらの世界観までぐいぐいと揺さぶってくる。自分もかつてはそうだったかのように、過去ではなく今抱えているかのごとく感じられる。それでいて不快ではなく。
潮田の過去と現状。彼の理想とする状態と妥協点。それらがリアルな日常と絡んで語られる分、どれだけ悩んでいてもうじうじとした印象がしないのだと思う。特に料理の描写がよくて。私自身も包丁で食材を捌く時、煮込む時など、どれだけうじうじしていても無になれるから、あの描写が好きなんだと思う。
過去に一度だけ、狩猟した猪の肉を分けてもらい料理をしたことがある。あの、未知の肉を目の前にした時の、どう料理してやろうかという高揚感、実際に捌きながら肉質は?固さは?と材料と対話する感じを思い出した。結局私は牡丹鍋とカレーにしたけど、満足いく出来栄えじゃなくて、ぜひまた挑戦したいとなったんだ。