

橘海月
@amaretto319
美味しいお酒と本、かわいい娘達と唯一無二の友人でもある旦那がいれば幸せ。
本はある時は私の唯一の世界で、またある時はそばにいてくれる友人で、絶望から救ってくれる救世主だった。読める時も読めない時も本はじっとそこにあって、私はただひたすら読んで読み尽くしてまた読みたいなと思う。いつまでも。
Xは@amaretto319
- 2026年5月17日
リブート!福田和代読み終わった銀行の統合により、旧システムをそれぞれ保守することとなったシステム会社の物語。深夜に叩き起こされ休日を返上し、東京の相手方に嫌味を言われる関西のPM横田と、その東京のPM仲瀬川。対局にある二人が互いを意識しつつも、謎のエラーを解決するジェットコースターストーリーだった。 読み始めた時には、著者のことだからてっきりシステム障害の裏には何かしらの陰謀や犯人の存在があるのかとばかり思っていた。だがそうではなく、思いもよらないミスやちょっとした状況がシステム全体に影響を与えるのだとわかり、物語は池井戸潤のような仕事を中心とした人間ドラマに舵を切った。 面白いのは、正反対の特徴を持つ横田と中瀬川の仕事っぷりだ。新人の部下にも積極的に任せる温厚な横田は押しが弱く、エリートしかいらないと豪語する中瀬川は安心できる部下が不在だ。互いにライバル視し苦手意識はあるものの、エラーの解明と対策という共通の目的で認め合う二人のやりとりと変化がいい。 - 2026年5月16日
川のほとりに立つ者は寺地はるな読み終わった駅前のカフェで働く清瀬は、病院からかかってきた電話で、かつての恋人松木が意識不明の重体だと知らされる。関係性を問われた清瀬は咄嗟に「婚約者です」と嘘をつくが…。“川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない”複雑な想いを紐解いてゆくような物語。 恋人の松木には清瀬の知らない秘密があり、家族と複雑な過去があった。店長である清瀬にとって厄介な従業員な品川にも、松木の友人である樹にも。人それぞれに抱えた秘密は彼らの人生に深く影響していた。そして謎の女性である天音にも…。鬱々としたもどかしさの中にも、意外な爽やかさも感じられた。 物語を通して思う息苦しさは、著者がなかなかに「その人の中にある他者から嫌われる要素」をうまく描いているからかなと思った。清瀬の嫌いな面、松木の、樹の、そして天音の。誰にでもある要素でいて、物語には意外と登場しないこともある面。だからこそ篠ちゃんが言う「ほんとう自分とか確固たるものなんかない」が響く。 - 2026年5月16日
- 2026年5月9日
星くずの殺人桃野雑派#ミステリ読み終わった「宇宙を身近に」と、破格の価格で宇宙旅行に参加する六人と、彼らを率いるパイロット伊東に添乗員の土師。一行は無事に宇宙ホテルに着くも、土師は伊東の亡骸を発見して…。 宇宙空間で起こる連続殺人、不可思議な謎の解明はもちろん、次々と起こる事態に対応するアクションに手に汗を握る。 読み終えてみると、なるほど宇宙規模の動機とトリックだなと思いつつも、それでいて地球で生じる悩みや葛藤の域を出ていないのではとも感じた。それぞれの宇宙にかける思いも、一見すると宇宙でないと実現できないようでいて、実は日常と地続きなのも。宇宙にいる時ですら、我々は地球と切り離せない存在なのだなと。 登場人物の印象も二転三転しつつ、ある人物に対してウザさは感じつつどうしても憎めない気持ちでいただけに、ラストの落ちはそうくるか!となって笑ってしまった。これは必読。 - 2026年5月9日
サーチライトと誘蛾灯櫻田智也#ミステリ読み終わった虫好きな青年魞沢泉が、あちこち出歩くうちに事件を解決してしまうシリーズ。魞沢は名探偵というよりも、偶然居合わせたトリックスターの役割が大きい。小さな謎や会話から、徐々に大きな謎やゾッとする事実に発展する「ホバリング・バタフライ」がお気に入り。 - 2026年5月7日
ビオレタ寺地はるな読み終わった四年近くつきあった彼に婚約破棄され、見知らぬ町で泣いていた妙に声をかけてくれた菫。彼女は雑貨屋でアクセサリーや人形の他に、大事なものを埋葬する小さな棺桶を売っていた…。 絶望から徐々に日常を取り戻す主人公と、風変わりな周囲の人々の優しさが沁みる物語。 一番印象が変わったのは、主人公が「とりあえずつきあう」とした年の離れた千歳だ。誰にでも優しく、女性にだらしないおっさんでしかなかった彼が、日々を重ねるごとに特別な、かけがえのない存在になってゆく。それは妙にとってただのバイトでしかなかったお店もそうで。運命とは劇的なだけでなく、こうした密やかに訪れるものでもあるのだなと思った。 - 2026年5月4日
草原のサーカス彩瀬まる読み終わった製薬会社から大学の非常勤講師に出向した姉の依千佳と、アクセサリー作家の妹仁胡瑠。性格も何もかもが違う姉妹が、それぞれの仕事に邁進し脚光を浴びつつも、どこか歯車が狂ってゆき…。著者にしては珍しく、終始現実的な問いを突きつけられる容赦ない物語だった。 自分が好きなアクセサリーさえ作っていれば、ただ幸せだった仁胡瑠が、ミューズのような女性との出会いからあれよあれよと人気作家となり自身がブランド化し、絶頂を迎えた途端に彼女に去られて何も手につかなくなってしまう様がリアルだった。俗に言う天才と呼ばれるアーティスト、彼らの孤独と依存が手に取るようにわかる。 また、計らずしも治験データの捏造に手を染めることとなってしまった依千佳が、裁判や諸々を終えてからじわじわとやり切れなさが込み上げ「言われた通りにしただけなのに!」と内心憤りを感じるのも辛かった。渦中にいるほど自分が見えず、身を守ることすらできずに利用され捨てられる。実在の事件がベースとなっているだけに重苦しい。 - 2026年5月4日
神さまショッピング角田光代読み終わった普段は信仰がないのに、衝動に突き動かされ聖地巡礼や祈りにゆく主人公達を描いた八つの物語。状況は異なれど、日常に絶望を抱えている「神さまに会いにいく」「絶望退治」過去の旅を懐かしく思い返す「落ちない岩」「モンゴルの蓋」がよかった。事前の高揚感と程よい失望のバランスも。 どの主人公達にも共通して、頭の中で描く理想のそれと、現実に旅をし現地に辿り着き目にしたそれとのギャップが印象的だった。あんなに思い描いていたのに、想像より陳腐に見えたり、あんなに頭から離れなかったのに祈るのを忘れたり。そのしぐさこそが“らしい”と感じた。とても人間らしいなと。 - 2026年5月2日
女王様の電話番渡辺優読み終わった退職し、風俗マッサージ店の電話番バイトをすることになった主人公志川。「ファムファタル」というお店のお気に入りは美織女王様だが、彼女は志川と夕食を約束した日に失踪してしまって…。主人公志川のとりとめのない今と過去、徐々に明かされるそれらに胸が苦しくなる。全文を通すとぶっ刺さってくる冒頭の一文にも。 「この世界はスーパーセックスワールドだ」 風俗店で電話番を行う志川が、何の気なしに呟いた言葉だとばかり思っていた。様々なお客様が利用するも、皆目的は一つなのだと自虐的に吐き捨てたものだと。でもそうではなかった。彼女にとってもっと切実で、もっと身近な感想で、もっと地獄を表すものだった。 風俗店のオーナーが主人公に何気なく尋ねる「大丈夫?」友人が志川に秘密を打ち明ける際にも言う「大丈夫だと思った」 何が常識で何が非常識か、何が地獄で何が天国か。マイノリティだと明かされた人が無邪気に言う「大丈夫」に、憤りすら感じる。違うそうじゃない、何もわかっていないと心底。 - 2026年4月26日
クジラアタマの王様伊坂幸太郎読み終わったあれ?これは現実かな?と思わせる文章を描くのが、上手い作家がいる。タイプは異なるが、朝井リョウと伊坂幸太郎の小説はまさに「あれ?これは現実かな?」と思わせられるものが多い。 読みながらこんな現実があったような?と不気味になるほど。荒唐無稽な設定なのに説得力があって、何度もゾッとした。 製菓会社の広報に勤める会社員の岸、若者に絶大な人気のダンサーヒジリ、都議会議員の池野内、三者三様な彼らは、ある共通の過去と夢を共有していた…。夢の中で敵と戦い勝つと、現実のピンチも切り抜けられる…。不思議な世界と現実との境目が曖昧になる中、幾度も訪れるピンチがあっさり解決しながらも、不安はひたひたと押し寄せる…。年月が経つのに一抹の寂しさもあっただけに、意外な人事には小躍りしたくなった。そうきたか!年月が経つのも悪くない。 - 2026年4月25日
火災調査官 (創元推理文庫)福田和代#ミステリ読み終わった明治創業の老舗ホテル松帆苑、その昔の関係者が次々と放火の被害に合う。現場には時限発火装置があり、周到な用意がなされていたが、意外にも被害は最小に留まる。放火の謎を追うクールな火災調査官の東に、放火を消し止める熱血消防士の白木。現場になぜかある絵画と魅力的な謎や登場人物が満載。結末はやや唐突に感じた。 意外な犯人については、珍しく冒頭から感が冴えていて、東が最後に呼びとめる時には絶対にそうだと確信していた。バブル期を彷彿とさせる豪華絢爛な老舗ホテルの火災は、不謹慎だがさぞ絵になるだろうと思われ、映像化が似合いそうだなとも。 - 2026年4月24日
七つの海を照らす星七河迦南#ミステリ読み終わった児童養護施設の七海学園で働く春菜。2年目でまだまだ新米ながら、児童のために日々を精一杯に頑張っている。七海学園では日常的に謎が続くが、ひょんなことから児童相談所の新海さんがそれを解き明かしてくれて…。季節が流れるごとの不思議がラストに繋がるものの、やや結末は強引に感じる。 また、本作が鮎川哲也賞ということで、批評で言われていた「著者は日常の謎やタイトルから、若竹七海を意識しているのか」「本文で回文を重要視し過ぎでは」にちょっと笑ってしまった。うん、私もその印象だったよ…。 - 2026年4月18日
探偵は友人ではない川澄浩平#ミステリ読み終わった前作『探偵は教室にいない』に続くシリーズ第二弾。 一作目がかなり好きだったので期待して読んだが、こちらの方が謎も登場人物の気持ちも不明瞭なものが多く、やや消化不良だった。これだけを読むのもおすすめしないし、前作が好きな人には余計におすすめしないので、結果的に万人にあまりおすすめではない。 だが、真史にとって幼馴染で頼りになる探偵でしかなかった歩が、互いにそうではない存在になりつつあり戸惑うのだけは理解できた。 日常の謎の中で、人は無意識にそして意図的に嘘をつく。単なる保身もあれば、自分以外の誰かのためにつく嘘も。そしてそれに気がついたとしても、小説でない限りそう人は問い詰めたりはしない。そんな喉に刺さった小骨のようなものが積み重なった四編だけに、最後の「理由」はとても腑に落ちた。 - 2026年4月18日
め生える高瀬隼子読み終わったある日突然人々の髪が抜けて、それは感染症のように広がった。大人達がハゲる中、子供だけは髪の毛があり、年齢とともにどこかの段階で毛がなくなる。元々薄毛で悩んでいた佐島と真智加、世界がハゲで覆い尽くされホッとするも、なぜかその後真智加の髪は生える。すっかりハゲが当たり前の世界で、真智加は皮肉にも再び居心地の悪さを感じるのだった…。 「チビやデブを笑う風潮は批判されるのに、どうしてハゲは許されるのか」の問いかけは本当にそうで。M-1で優勝したコンビのネタが当時から好きでなかった私には納得しかなかった。 - 2026年4月16日
コンサバター 幻の《ひまわり》は誰のもの一色さゆり#ミステリ読み終わったシリーズ第二弾はひまわり! 修復士スギモトとその助手の晴香は、長年封印されたゴッホのひまわりのコレクターから鑑定と修復を請け負うが、その絵が盗まれてしまい…。ゴッホにフェルメールと華やかな絵画の裏側で、シルクロードとアフガニスタンの盗掘に焦点が当たる。意外な犯人にも注目。 中編集だった第一弾と違い、長編な分読み応えがあった。絵画の修復と盗難の切っても切れない歴史や、紛争で美術品が破壊され盗まれる歴史。それぞれの国や立場とルーツを巡るアイデンティティ。読みながらずっとすっきりしないモヤモヤがあった分、結末はやや駆け足だがお見事だった。美術の素晴らしさだけでない側面に考えさせられる。 - 2026年4月8日
スノードームの捨てかたくどうれいん読み終わったすごく劇的な何かがあるわけではないのに、妙に印象に残る短編集。それは異なる友人に馳せる思いだったり、捨てられない指輪を物語にしたくない気持ちだったり、展示品の監視員独特の目だったり…。心に残るセリフもあり、どれも読んでいてふっと惹かれるものがあった。 物語の始まりと終わりではなく、彼女達の人生の一部分をこちらが眺めているような、そんな感覚。 - 2026年3月27日
コンサバター 大英博物館の天才修復士一色さゆり#ミステリ読み終わった大英博物館の修復部門で働く春香。大勢いる職員の中でも変わり者の偉才スギモトの助手として、彼のフラットに住まわせてもらいながら、様々な依頼の解決を手伝うが…。コンサバターという仕事の醍醐味、英国からギリシャの神殿やエジプトのミイラ、そして北斎がいた日本まで、芸術品を巡る旅が面白く興味深い。 冒頭から大英博物館が抱える問題である美術品の掠奪や返還について、後半は一度所蔵した美術品は決して転売や処分をしてはならないというルール(それゆえ多くが展示されず収蔵庫で眠る)にも触れ、美しいだけでないそれらの文化的、政治的な側面も紹介される。物語としてだけでなく、その背景も含めて面白かった。 - 2026年3月18日
アルバトロスは羽ばたかない七河迦南#ミステリ読み終わった文化祭の当日に、高校の屋上から墜落した彼女。事故か自殺未遂と片付けられそうにな謎を追って、春から冬へと児童養護施設七海学園の季節は巡る…。 ミステリとしてだけでなく、養護施設を舞台とした仕事小説としても面白かった。メインの謎解きはもちろん、季節ごとに挟まれた日常の謎も良い。 メインの大掛かりなトリックについては、読み終えてみると「よくある」印象ではあるけれど、細部に至るまで考えられ尽くしたもので、作者はフェアネスを重んじるのだなと感じた。わかってから辿ると、なるほどだからこういう言い方かと不思議だった部分も納得だし、読み返す楽しみも散りばめられている。 様々な事情がある児童が暮らす学園で、複数の子供達を見るのは難しいのだろうなとも思うが、その中でもちょっとしたことを彼らが覚えていて現実に活かしたりする様子には希望を感じた。 できればそれが、彼らだけでなく全ての子供にありますようにとも。 - 2026年3月13日
鏡の国岡崎琢磨#ミステリ読み終わった小説家の叔母が亡くなった。遺作を引き継いだ主人公は、刊行間近となったある日担当編集者から告げられる「この小説には削られた文がある」 確認のために小説を読む主人公は、作家室見響子が綴った40年前の物語の世界へと旅をする…。 現代と過去、入れ子の物語が鏡のように見事に反転する様が心地よい。現代と過去の小説が交互に展開すると聞き、目まぐるしく感じるかな?と身構えていたが、特に気にならず幕間のような感覚だった。 当初は削られた箇所への謎解きかな?と思ったが、無理に謎を解こうとせずとも、入れ子の小説は充分に楽しめるものだった。響や他の登場人物が醜形恐怖症や後天性の痣や相貌失認に苦しみルッキズムに振り回される姿がリアルで、その悩みも息苦しさも身に詰まされた。 - 2026年3月12日
連鎖犯生馬直樹#ミステリ読み終わった中1と小6の姉弟が誘拐された。二人は解放されるも、シングルマザーの母親は晩の9時過ぎに子供だけでコンビニに行かせたとコメンテーターに批判され、その後亡くなってしまう。7年後そのコメンテーターが何者かに殺害されて…。誘拐シーンから残酷な展開が続くが意外と読後感は悪くない。 母がバッシングの末亡くなった凛と翔の7年間を思うとやりきれないし、犯人を捕まえられないまま被害者を死なせてしまった後悔を抱えた刑事達の章は、読んでいて手に力が入った。物語はかなり意外な展開を見せるが、それよりも主題は別にあるだけに、亡くなった尚子の気持ちを思うと更にやり切れなくなる。ただ姉弟の成長は救いだなと思うし彼らは希望だなとも。
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