橘海月 "スクラップ・アンド・ビルド" 2019年8月4日

橘海月
橘海月
@amaretto319
2019年8月4日
スクラップ・アンド・ビルド
冒頭漂う閉塞感とは異なり意外と読み易く、読後感も悪くない。退職し資格試験の勉強をしつつ就職活動中の健斗と、健康でありながら「早く死にたい」が口ぐせの祖父。介護がメインながら、高齢者の運転事故にもサラリとふれててドキッとさせられる。 物語は健斗の視点からごく限られた人間模様と日常が綴られるのだが、この健斗が徹頭徹尾、中途半端なのがいい。自動車ディーラー退職後も取り立ててやりたい事はなく、資格試験も再就職も彼女とのつき合いも中途半端。年齢も28歳と若いようで若くなく、祖父の尊厳死を企てるもすぐに逡巡してしまう。 つまり健斗の中途半端さは、何ら特別なものなどないありふれた若者の普通であって、その普通さと密に高齢者介護が存在しているということ。何も楽しみも希望もなく「死にたい」と口にする祖父と、将来に対し悲観的にならざるを得ない健斗との違いは若さだけでは?という皮肉もうまく描かれていた。 一番秀逸だったのは「死にたい」と口にする祖父の望みを叶えてやろうとした健斗が、友人の介護士のアドバイスも受け実践した『手厚い介護』。自分でさせてた洗濯物を畳み食器を下げ、廊下の障害物を取り除く。高齢者の思考と行動を奪い介護度3を5にする努力が、苦しみのない死への最短なのだという皮肉。
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