はに "兎とよばれた女 (ちくま文庫..." 2025年9月5日

はに
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@828282chan
2025年9月5日
兎とよばれた女 (ちくま文庫)
澁澤龍彦の最初の妻である、矢川澄子による長編小説。主人公である兎の従順で献身的で、マゾヒスティックとも感じられる思考が内省的に生々しく語られており、小説というよりも自叙伝のような印象を受けた。 神様(男性的な存在/絶対的な力を持つ支配者)と兎(女性的な存在/非力な被支配者)の歪んだ関係性。兎の自己犠牲的な思考の危うさは、作者によるフェミニズム的な問題提起の意図を感じつつも、私の個人的な嗜好としては、マゾヒズム的な色気を纏った心理描写に心惹かれるものがあった。 自分にとって唯一無二の特別な存在から、暴力的に支配されることで感じる恍惚。自らの快のために、能動的に受動的であること。身に覚えがある感情だなあ、と思いながら兎の独白を読んでいた。 「わたしたちが対等でなかったなんて、月並みなことをおっしゃらないでね。つねにみちびくものと、つねに従うもの。つねにもとめるものと、つねにこたえるもの。この、つねにとつねに、というところで、わたしたちは、世にもみごとな対等性をもちつづけてきたのです。(p.15)」 この一文は、私の考えるサディストとマゾヒストの関係性に近い。 「なぜそのような書き方をあえてしたのか。なぜそのように従順にふるまったのか。ほかでもない、待つこと、従うことこそが己の本性にちがいないという、作者のささやかな悟りがあったからにちがいありません。この作者は女です。そして女を、己れそのものを描き出し、ロゴスの明るみにさらけだしてみたかったのです。女であることのよろこびもおかしさも、その滑稽も悲惨ももろともに。(p.121)」 フェミニズム的な問題提起の側面はありつつ、そこに回収はせず、一個人の女性の実感を多面的に描いている。良いも悪いもなく、共感できる心情の描写が多かった。
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