ユメ "レインコートを着た犬" 2015年4月26日

ユメ
ユメ
@yumeticmode
2015年4月26日
レインコートを着た犬
「あのさ、旨いとかなんとか、講釈を並べてるうちは大したことねぇんだよ。しょせん、感想なんてものは、その程度のもんだ。本当に旨いものは、俺を黙らせる」全くもってデ・ニーロの親方が云う通りなのだけれど、この極上の物語を初めて読み終えた時の心の震えを覚えておきたくて、言葉を探してみている。疲れていたはずだったのに、本を開くと、吉田さんの世界を創る言葉たちが、ひたひたと雨になって注いできて快い。読み始めてすぐに、読み終えたくないと思った。けれど、生きているかぎり、何度でもこの本を読めるんだ、と。なんという幸せ。 日々の生活が息苦しくなった時、ぶらりと月舟町に足を運ぶと、そこはいつでも私を否定することなく受け入れてくれる。親方の古本屋が、サキさんの屋台が、〈つむじ風食堂〉が、〈月舟シネマ〉が、疲れた人たちの灯台として明かりを灯し続けてくれている。悲しみが降る日には、黙ってレインコートを差し出してくれる。この町に来ると、ありのままの自分が少しだけ愛おしくなる。 嬉しいことも苦しいことも、できるだけたくさんのことを覚えておきたい。いつかその内の幾つかが結びついて、本当に好きなことを見失わないための目印となってくれるように。そして、せっかく人間に生まれたのだから、できるかぎり笑っていたい。ジャンゴ、いつの日か君に会えたら、頭を撫でて「いい笑顔だね」と云うんだ。犬だって笑いたいということを、私は君に教わったのだから。
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