
もち
@yn_cstd
2026年1月12日
火星の女王
小川哲
読み終わった
2125年、一部人類は火星へと移住していたが、地球帰還計画の採択と、生物学者リキ・カワナベの火星における発見が火星と地球の関係を大きく揺るがす。
登場人物たちの過去と立場と思惑がからみ合い、星間戦争勃発の手前までいくのだが、ギリギリのところで踏みとどまったのが(映像化前提だったためでもあるだろうが)現代的であり、人類の理性に対する祈りに近い信頼を感じた。
そのぶん終盤の盛り上がりに少々欠ける部分があったかもしれないが、どちらかといえばスペクタクルより人物描写に重きを置いた作品だと思うので、不満はない。
盲目の少女リリが若くポジティブで、彼女の明るさが物語をよりよい方向へ導いてくれた。
魅力的だったのが自治警察のマル。作中ずっとそろそろたっぷり寝させてあげてほしいと願いつつ、獅子奮迅の活躍が好きだった。相棒のミトもお気に入り。百年経ってもエリートの若造って本当にこんな感じなのかもしれない。
そして、マディソンの物語のかき乱しっぷりがすごかった。その嗅覚や決断力は恐ろしく、でたらめっぷりや結末を含めて野心的な実業家のとんでもなさを見事に描写した。よく書けるなと感心したレベル。有能だけど、こんな人味方にいても敵にいても嫌だよ。
また、百年先でも人類の精神性が大きくは変わらないのだろうと思いつつ、変わらなければならない部分とも感じた。
例えば、明言されるまでマルは男性だと思っていた。地球を飛び出してそれきり息子と会えていない自治警察の捜査員が男性でないといけない決まりはない。ミスリードというより、価値観の更新を求められている気がした。
距離はコミュニケーションを阻害するし、あらゆる物事はひとつひとつ辛抱強く片付けさえすれば終わる。私の時間はたりないけれど、いつか誰かがたどりつく。それは百年後も変わらない。希望と諦観と祈りのSFだった。
ラストが爽やかでよかったな。
