
葉山堂
@hayamado
2026年1月27日

密室の戦争
NHKスペシャル取材班,
片山厚志
11年前の2015年、NHKスペシャルで放送されたドキュメンタリー「密室の戦争」。
当時タイトルを一目みて、すぐに放送日時をメモした。「日本人捕虜、よみがえる肉声」というサブタイトルから、実際の会話音声が聞けるのだろうとわかったから。
1943年(昭和18年)から45年(昭和20年)、太平洋戦争が苛烈さを増していく時期に、南方の激戦地で連合軍の捕虜になった日本兵たち。オーストラリアの捕虜収容所での尋問を録音したテープが残されていることがわかり、ドキュメンタリー番組の制作が進められた。
本書はその番組の書籍化であり、ディレクターの片山厚志氏の制作の道のりを辿るドキュメントでもある。録音テープの存在を知った片山氏が、その音声を確認し捕虜の特定と遺族とのコンタクトに奔走し、ときに葛藤しながらも謎を紐解いていく様子が記録されている。
番組は、異なるキャラクターを持つ4名の捕虜が軸に据えられ、それぞれの尋問官とのやりとりから「戦争」を見つめる構造となっている。
強い信念を持つがゆえに苦悩する者、とくに深い考えを持たない者、自分がしたことに苦しみ疲弊していく者…
「戦争は醜い出来事…そう思いませんか?自分たちに嘘をつき、国に嘘をつき、私たちはその“嘘”に頼っている。それは私たち[尋問官と稲垣]の考え方からすると、全く間違っているように感じます」
「はい……でも、日本国民は政府や指導者に対して非常に従順なんです」
「そうなんですか?」
「彼らは自分たち自身で考えない」
「日本軍も危ないですね、これ」
「危ないです」
「そうすると、あと一年くらいで戦争は…」
「何で殺したか?」
「それはわかんない」
「わからないですか?」
「わからないです」
「拳銃で?」
「刀で斬ったです」
「首を斬ったか?」
「そうです」
「そんなこと、思い出してももう……嫌です。思い出すのが嫌です」
戦場で戦う人間の実態はただのコマである。
「祖国や大切な人を守るため戦った」というような決まり文句があるが、そのいかにも感動をさそう大義のもとにすることは、たんに一人でも多く、誰かも知らない人間を殺害することである。一対一の決闘ではない。崇高な信念もなにもない。
そして"英霊"になるかならないかは、銃弾のタイミング、当たる位置にいたかいなかったか、数センチの差。
現地の市民を殺害し、マラリアにかかり、飢えに苦しみ、精神に異常をきたし…戦場にあるのはただただ"混乱"であるということが、捕虜たちの言葉からは分かる。
ドキュメンタリーの実質的な主人公、稲垣利一と尋問官とのやりとりはあまりにもドラマティックで、現実のものとは信じられない思いがする。昭和18年、当時の状況下で、彼がある決断にたどりつくまでの苦悩や逡巡が、実際の言葉として「音声」に残っている価値は計り知れない。
この歴史的音源を発掘し世に出した当時30代のディレクター片山氏は、いまどんな番組を作っているのだろうか。