クリス・ティック
@kurib1
2026年1月19日

自然をつかむ7話
木村龍治
読み終わった
豆腐の形成から惑星の形成に話をつなげ、トーマス・マンの作品から生命誕生の話に持っていく、文理横断的な傑作科学エッセイ。
特に第六章の「アドリア海に落ちた涙」が抜群に面白い。海洋研究者として知られる著者のもとにある日突然鳴った電話。その内容は「かつてイタリアで恋に落ちた男性から、手紙で私の涙がアドリア海からあなたの故郷に届きますようにと言われた。いつその涙は日本の海に来るのか」というもの。
普段専門家がどれほど市井の人々の質問を受け付けて答えているのかは知らないが、こういう電話は適当に取り合ってもよさそうなものだが、著者は真面目に考える。大真面目に、涙の分子や海流から細かく考えて検討している。このクソ真面目さと考察を彩る博覧強記のギャップに爆笑してしまう。
一方茶目っ気があるだけでなく、超能力によるスプーン曲げを否定した金属学者の「指で擦るだけで金属は簡単に曲がらない。奇術と断言できる」という姿勢を頑固と評さずに「自然科学の信念を見た」と人類が積み上げてきた集合知の方を信じる硬派な姿勢も好感が持てる。
マクロとミクロの話を科学現象を軸に繋げて語るのは寺田寅彦っぽいけど、実際に意識して書いたそう。頭のいい人の素敵な雑談をずっと聞いているような気持ちよさがある。