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@nininice
2025年3月11日

有明詩抄
蒲原有明
ふと思い出した
今日はあまり重い本を持ち歩きたくなくて、文庫一冊ポケットに入れた。大好きな詩集。
「綠の印象」 蒲原有明
古き古き追憶のあなたに、いつしか
忘られたる綠の
印象よ、盲ひぬる
おぼろの薄膜のあなたに。
遠ぐもり淀める
空氣のえもわかぬ
感觸の薄明かり、
その奥にこもりて咽び入る聲あり。
哀愁の森の若葉の、
はたや漂浪の廣野の草の啜泣きか、
忘られたる古き追憶の、
ただにうら悲し。
淡くはかなげなる綠の古き印象よ、
おぼろなる影の浮ぶは花か、
戀としも見えぬにほひに絡み、
かすかにもうるほふ綠の涙。
今日の気持ちにぴったりの一編。
先日、長年楽しみにしていた映画『ウィキッド』を見に行って、かつて何度も通った舞台のことを思い出している。アポロヴィクトリア劇場。朝から並んで二十ポンドの当日券を買う。最前列。もう十年以上も昔の出来事で、緑の魔女をずっと心に大切にしていたつもりでも、美しく楽しい記憶は思っていた以上に薄らいでしまったみたい。寂しい。