ゆき "ラブカは静かに弓を持つ" 2026年2月1日

ゆき
@yu-ki
2026年2月1日
ラブカは静かに弓を持つ
名著。かなりよすぎた。 図書館本なので、物として持っておきたいのでカートに入れておく。 本屋大賞2位の、話題は実話を元にしたフィクション?
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p40 その嬉しそうな表情のせいで、ここに通っている生徒の平均よりは見どころがあるのかもしれない、と珍しく橘は自信が持てた。そのささやかな喜びは、フィルムのように薄っぺらな自尊心を少しだけ照らした。
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p58 年齢が上がっていくにつれて、あらゆる齟齬は大きくなった。周囲がするりと乗っていくボートに、自分だけは乗れない気がした。 普通の人生、のような空想上の泡沫が、パッと弾けたのが見えたのだ。
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p62 「〜橘さんは褒められるのが好きじゃない人ですか?」 「そんなことは」 「なら俺が信用されてないだけだな」 レッスン先で褒められることがあんまりなかっただけです、と言い返すと、そういう可能性もあったか、浅葉がゆるく腕を組んだ。
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p76 「疲れてる人には小野瀬の『雨の日の迷路』なんかがいいだろ。メロディアスで繊細で、弦一つでも十分に映える」
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p86 バッハの『無伴奏チェロ組曲』第一番の、クーラント。 〜第一番から第六番まで、全六曲で構成されているこの組曲は、チェロの聖典とも呼ばれている。その匂い立つような甘い旋律は、聴く者の耳の奥を淡く焦がす。
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p94 「〜だけど、桜太郎先生のチェロを耳にした瞬間に、初めてあの楽器の本当の音色に出逢ったような気がしたの。行き止まりだと思っていた道の向こうに、別の世界を見つけたような」
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p98 「ブダペストの街はブダ地区とペスト地区に分かれていて、ドナウ川を挟んでその二つが向き合っている。ブダ側には王宮が、ペスト地区には国会議事堂があって、それらを結び付けるような鎖橋が燦然と夜の川に輝いている。この世の光を全部集めて暗闇に並べたような目映さだよ」
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p107〜 戦慄きのラブカ
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p135 「悲しい話だから好き好きあるとは思うけど。主人公の男はね、有能な謀報員で一目置かれる存在ではあるけれど、天涯孤独の身の上なんだ。それが潜入先の敵国で一般人を装ううちに、普通の暮らしがどんなものであるのかを知ってしまう。隣人と楽しく酒を飲み、近所の子どもとパンを焼くような生活が自分の人生にも起こり得るんだと気づいてしまえば、あとは辛い。その気持ちは本当なのに、自分のすべては嘘だから」 「ラブカはね、世界で一番妊娠期間が長い動物だって言われているんだ。その期間は三年半。非常に貴重な生き物でしょ。それになぞらえて、作中では謀報員の隠語がラブカなんだ。気が遠くなるほどに長い間、暗い海の中で息を潜めて、敵方の情報を膨らませ続ける周到なスパイ」
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p184 「一般的な基準で自分の楽器を選ぼうとするなよ。ピンと来るのか、ビビッと来るのから感覚は人それぞれだけど、橘君がいいなと思ったチェロが、世界で一番いいチェロだ。そりゃ地産とか、工房とか、言い出したらキリないさ。だけど、それもある意味では他人の基準だろ?俺の楽器は俺のものだし、橘君の楽器は橘君だけのものだ。自分のインスピレーションを信じるしかないだろ」
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p203 「大抵の人間は、真剣に悩みを打ち明けたところで勝手に俺を励ましてくれるんだ。いまのいままでも十分すごいよ、とか、コンクールだってなんとかなるよ、とか、どこの誰でも当てはまる占いみたいなことをさ。だけど、俺は心のない慰めなんかを向けられるのがこの世で一番嫌いなんだ。だから橘君がいいと思った。君はくだらない慰めを口にするような人間じゃないからな」
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p244 軽蔑の色が滲んだ眼差しを向けられて、橘は自分が何よりも恐れていたものが空から降ってきたような気がした。 「そうやって自分が被害者みたいな顔をするな。傷ついたのは俺のほうだ。何から何まで嘘をついて、人のことまで持ち上げやがって。何が区役所の職員だよ。何が、ポップスがやりたいです、だ。そりゃ、やりたかっただろうよ。ポップス弾いたらそれを証拠に何億だかを取れるんだもんな。よかったな、講師が俺みたいなチョロい感じの人間で」 どういう気持ちでやるんだ、そういうのは、と浅葉が井上。 「善人ぶるつもりはないけど、俺はそういうことはしないんだ。女だって被ったことないし、偉い奴の機嫌も取りにいかない。それで損することだってあるけど、それでいいと思ってる。真意じゃないことを口にしたって、自分の心が死ぬだけだから」 だけどおまえはそうじゃないんだな、と呟かれた瞬間、薄っぺらな何かが砕かれて、澄み切った諦念がどこからともなく押し寄せてきた。〜人生とはとどのつまり、所詮はこんなものなのだ。
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p261 「私たちは悪いことをしてきたし、人を裏切ることをした。何をどう言い訳しても、その事実は変わらない。いま反省したって仕方がないし、謝罪の機会もきっとないし、謝られたって相手は困る。そういうことですよね?」 考えなしな発言をしてすみません、と橘が謝ると、本当に想像力がないようですね、と辛辣な言葉が返ってきた。
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p279 「・・・公務員試験はとにかく反復なんだって、橘さんが言ってたから。全著連の人だったってことは、本当は公務員じゃないんですよね?だけど、私はあの言葉を信じて一生懸命やっちゃったんですよ。そしたら筆記が通っちゃって」 嘘から出たまことじゃないけど、こういうことだってあるみたいなんですよ、
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p290 「それが慣れによるものなのか、橘さん自身の変化なのかはわかりませんけど。でもどちらにせよ、安全とか安心を、この場で感じてくれているってことですよね?そういったものが保証されていなければ、自己開示はしにくいものです。自分の話をしても大丈夫なんだって、いま橘さんは思うことができている。それっていわゆる信頼です。その無数の信頼の重なりの上に、人間関係は構築される」 〜 「そういう信頼関係みたいなものは、一度ぶち壊すとまずいでしょうか」 ぶち壊したっていうか、もはや木っ端微塵なんですが、 〜 陽の当たるモンステラの葉の横で、診察終わりに医師が言う。 「さっきのお話の続きですけど、信頼を育てるのが時間なのだとしたら、壊れた信頼を修復せるのもまた時間なのではと私は思います。ただ、壊れた原因がご自身にあったのだとすれば、きちんと誠意は見せて」
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p307 「たとえ、経歴とかが嘘だったとしても」 人の本質ってもんは繕えないもんだろう 〜 「おまえは自分から切り離してしまったものを、また手繰り寄せられるような人間じゃないと思ってた。経緯がどうであろうが、ああいうことをやっちまったら、二度と戻ってこられないだろうって。俺の予感は当たるんだ、基本的には」 〜 「君は、ちゃんと、ここに来た。この世は何が起こるかわからない」
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