歩歩歩 "新版「自分には価値がない」の..." 2026年1月31日

歩歩歩
歩歩歩
@heesaid
2026年1月31日
新版「自分には価値がない」の心理学
人間の価値は「人格的価値」と「社会的価値」に大別される。前者は感情や気質などの個人的な側面、後者は学歴や地位、収入など社会的な側面。自己無価値感に苦しむ人は、自らの価値基準を社会的価値に置きすぎている可能性がある。社会的な価値基準に照らして、それらを満たせない自分には価値がない、と考えてしまう。 社会的価値を基準とした無価値感とは、言ってしまえば認知の歪みである。本書には無価値感に対する様々な対応法が出てくるが、それらの多くは認知行動療法やセルフコンパッションとして一般に知られるもので、特段目新しさはない。それらの対応法をひと通り試してきた人にとって最後の砦となるような本ではないように思うが、漠然と無価値感を抱えており暗中模索している人にとってはよき入り口になるかもしれない。 第1章〜第3章では無価値感の原因を明らかにしつつ、無価値感を感じやすい人の特徴や、その結果として現れる人格や状況について述べられている。このパートは自分の取扱説明書を読んでいるようだった。「分かる!」「そうそう!」と感じつつ、あまりにも冷淡に実態を突き付けられるため辛さもあった。 第4章以降は前章までを踏まえて、無価値感と向き合い、乗り越えるための方策について述べられている。要約すると「人生設計を持ち、仕事を通して自信を付け、他人と自分に優しくせよ」という感じだが、ややマッチョさや能力主義的な雰囲気を感じる部分もある。自分にとっての価値を定義し、それをもとに自己実現を、ということなのだとは思うが、ある意味では「それができれば苦労しない」という身も蓋もないものであり、働きたくても働けなかったり、将来の見通しがまったく立てられない困難な状況にある人にとってはかえって絶望感を深めるものになる恐れがある。この本に書かれていることはあくまでひとつの見方であり、合わないと思ったらすぐに放り出すのもいい思う。逆に、諦めとともに前向きさを得られる人もいるかもしれない。自分にとってはどちらかというと後者であった。 全体的に専門用語や難解な定義・引用を抑えた易しい内容ではあるものの、それだけに著者の体験談や主観による断定に依拠して書かれた、またはそう感じざるを得ないような部分が多く、客観的な説得力に欠ける書きぶりも少なくない。出処のよくわからない体験談や感想を用いて自説の強化をする場面も多々あり、このあたは話し半分程度に読み流すのがよいと思う。 とは言え、無価値感の根本的な原因を知り、自身を振り返る機会を得られたという点ではよい読書体験だった。この本がこれだけ売れているということは、無価値感が、言ってしまえば「ありふれた」ものであり、自分だけが取り立てて異常なのではないということでもある。こんなに苦しんでいるのは自分だけなのではないか、と思うと際限のない絶望に陥ってしまいがちだが、苦しみを相対化できればそれもいくらか和らぐものだ。無価値感という底なしの広大な絶望感の海に、実は底も果てもあるのだという感覚を持つことができるという意味で、一読の価値はあった。
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