
ぱち
@suwa_deer
2026年2月2日
中国行きのスロウ・ボート
村上春樹
読み終わった
村上春樹の初期短編集。
とりあえず収録作品のざっくり感想。
「中国行きのスロウ・ボート」
他者との距離感がテーマの短編なのかなと思った。
主人公がこれまでに出会った3人の中国人について語られる。
1人目は異なる人種や文化を持っていても互いを尊重しなくてはならないと言い、主人公も感化される。
2人目は大学の時のバイト仲間でふとしたきっかけを持って距離を縮めようとするも意図せず傷つけてしまう。本当に意図せずというか意味がないので、とにかく寓話的に、意図や意味が問題ではなく、近づこうとしても遠のいてしまうということが重要なのだろうと思う。
3人目は高校の同級生で社会人になってから偶然再会する。似たような環境で育ったはずなのに今では自分と同じ中国人相手にしか仕事をしていないし今後もそうだろうと語る同級生。同じ国で暮らしてるはずなのにまるで異なる世界を生きていて交わることがないのだろうな思わされる。永遠に距離が埋まることがないことを示唆されて、少し切なくなる読後感。
「貧乏な叔母さんの話」
主人公には貧乏な叔母さんがいない。でも貧乏な叔母さんの話を書きたいと思っている。冒頭の語り口とは異なる展開でえっそういう話なの?と思いつつ最後はなるほどと思わされるオチ。ちょっと落語っぽい話。
「ニューヨーク炭鉱の悲劇」
台風の日に動物園に行くのが趣味な友人の話から始まる。収録されている前2作の流れから、自分の生活圏や所属する社会の外にいる存在をどう想像したり自分と関連づけるかという話なのかなと思いながら読み進めると作品名の通りこれは「悲劇」であり、「悲劇」のまま描こうとする話だった。
何かの話題にも他人の意識にも上がらないような、はずれてしまった存在というのを描くのに、「テレビ」がモチーフ的にとても使われていると思う。
読むのが難しくはあるけど印象深く残る読後感。
「カンガルー通信」
収録作で一番難しかった作品。語り手の行動というか手紙にしたためられた文章がなかなかにやばい。宛先の相手がほのかにクレーマーぽい設定であることで不快感が薄れているのが上手いと思う。でも前収録と同様に他人とのつながれなさを描いた作品と言えるかもしれない。
「午後の最後の芝生」
失恋による不在と喪失による不在を描いた短編。この本全体がアメリカ文学的な空気が漂っているけど一番アメリカぽさを感じる作品。
「土の中の彼女の小さな犬」
前の収録作品と同様に不在と喪失感を描いている。それと同時に不在感をどう抱えるかという話にもなっていて、不在感による苦しみは無くなったけどある種の空虚感を抱えることにもなってしまったという話なのかなと解釈した。
不在のモチーフに「電話」がとても上手く使われていて唸らされる。
「シドニーのグリーン・ストリート」
収録作のなかで一番寓話的な作品。
「羊男」も「羊博士」も、電話帳に載ってるけど全く知らない存在だというのが、まさに他者との距離感や今となってはある種の分断として読むことができるような気がしてくる。
そして「羊男」と「羊博士」の関係性は、いろいろ考えられてまだ消化できていない…。
ゆるくユーモアを持って描かれてるけど、やはりエッセンスはしっかり盛り込まれてる作品だと思う。
