
はに
@828282chan
2026年2月2日

買った
読み終わった
◾️少女外道
裕福な家庭で育った少女が、出入りの植木職人の息子が怪我をしたのを見て、傷や血に惹かれてしまう「外道」の性癖が自分にあることを自覚する、という物語。その自覚を境に、少女がどのような倒錯に溺れていくのか……と身構えて読み進めたが、予想に反して、すべての歪みは少女の胸の内に閉じ込められたまま物語が終わってしまった。淑やかな美しさを纏った作品ではあったが、私が期待していたのは自身の欲望を受け入れて生きる強かな女性の物語であったため、やや肩透かしを食らったような感覚が残った。
こんな感想を抱くのも、今の私が、自身の嗜好をオープンに語って同好の士と楽しみを分かち合うことのできる、豊かな時代と環境に生きているからなのかもしれない。それって、なんとしあわせなことだろうか。
◾️隠り沼の
前半と後半で異なる人物視点の構成になっており、物語の終盤で主人公が誰か判明する。最終的にさまざまな情報が繋がり、ひとりの女性像が立体的になっていく様がミステリー小説のようで、読み終わった後、そういうことかぁ、と声が出た。
この作品をひとことで言い表すならば、幼少期に端を発する心の闇に呑まれてしまった女性の物語だ、と思う。自己を犠牲にしても救われないと自覚しながら、あえてその方向に舵を切る決断をしたことに、壮絶な狂気を感じた。ラストシーンの透明感のある静かな情景が、その狂気をより引き立てているようで、強烈な印象に残った。
◾️有翼日輪
あまりにもよかった。心の機微の描写が緻密で、どうしたらこんなものが描けるのかと、感嘆のため息が出た。
裕福な家庭の少年・圭雄が、やんちゃな同級生の兄・ギイに対して密かに抱く、甘く苦い感情。成長し、フレスコ画家となった圭雄の背中に、同じように淡い感情を抱く男がいる。主題が反復される物語の構図も美しい。
“かすかな物音に、圭雄は我に返った。バケツが視野を垂直に下降しつつあった。そうして、ギイが足場を下りてきた。浅い木箱の中の壁土をバケツに掬い入れながら、圭雄に目を向けた。話しかけたり笑いかけたりはしてこなかったので、圭雄はほっとした。崇拝する対象は、地上のものと対等に言葉を交わしてはならないのだ。”(p.118)
“高い足場に上るのは、運動が苦手な圭雄には不可能なのだが、縄が切れたのは自分のせいだと思った。整備兵の点検不備から、事故は生じたのだ。手のひらに残る荒縄の感触。ナイフで切れ目を入れた時の、手応え。自分がギイを死なせた。それは甘美な痛みを圭雄に与えた。圭雄は足の甲に刃物を突き刺し、ギイに殉じた。”(p.124)
◾️標本箱
この作品もとても好きだ。まず、標本箱というモチーフが私は大好きだ。時間の止まったものたちが美しく並んで収められた箱は、それだけで物語的であると思う。
15歳の少女・倫は、亡くなった千江叔母さんの遺品から、親に内緒で鉱石の標本箱を持ち出す。二十数年経ち、久々に故郷に戻った倫は、見知らぬ男の子から「『標本箱』覚えている?」と聞かれる。そこから、標本箱と千江叔母さんにまつわる物語が展開されていく。
私が思うこの作品の魅力は、なんといっても、梛木という男性の登場人物である。千江叔母さんは、ある偶然の出来事を通して、東京からやってきた梛木と出逢う。ふたりは徐々に親交を深めていくが、ある日、梛木は東京に引き上げることを決め、千江叔母さんに別れを告げる。
「僕は溺死しかかっているんだから、近づかない方がいいよ」「溺れそうになっている者は、手近にある何にでもしがみつくだろう。僕にしがみつかれたら、君も溺れる」(p.144)
この言葉選びに、梛木という男の知的な色っぽさが詰まっている。梛木の部屋には本がたくさん積まれている描写があるが、いかにも読書家らしいロマンティックな台詞だと思う。標本箱も、もともと梛木の持ち物で、千江叔母さんに贈られたものだった。ふたりで鉱物を見ながら他愛もないおしゃべりをするシーンは、なんとも微笑ましかった。
物語のラストで、声をかけてきた見知らぬ男の子の正体が明かされる。語られていない余白に壮絶なドラマがあったことが仄めかされ、切ない余韻が残った。