shiori "約束された移動 (河出文庫)" 2026年2月2日

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@shiori_417
2026年2月2日
約束された移動 (河出文庫)
文庫版にて読了。 表題作の「約束された移動」。 まずリビングの壁一面に千冊以上の本が並んだ本棚付きのロイヤルスイートという設定だけで、本好きには垂涎もの。 部屋から消えた本と、それを見て自分で買い揃えた手元の本たちを介して、自分と書棚の空洞が繋がっていると夢想するシーンが、ダークファンタジーのように美しくて印象的だった。 また、どんなお客さんでも決して悪口を言わないマッサージ部の主任さんが話すエピソードも好きだった。 「黒子羊はどこへ」は、子供たちを描いたシーンが最高。 P.174  ようやく字を読めるようになった子が、得意げに本を音読してくれる時、園長は最も深い安らぎを感じた。  「ねえ、ねえ、園長先生、準備はいい?」  準備と言ってもただ、椅子に腰掛けるだけでよかった。子どもはとっておきの一冊を抱えて園長の膝の上によじ登り、もそもそしながらお尻をぴったりくる位置に落ち着けた。おもむろに最初のページが開かれると、それを合図に園長は両腕で胴体を抱き寄せ、胸と背中をくっつけ合い、小さな肩に頬を近づけた。彼らの唇から一つ一つ言葉が発せられるたび、ふわふわした髪の毛が鼻先をくすぐった。 P.177  抱っこが必要な時、彼らは実に巧みで俊敏な動きを見せる。真正面から走り寄り、ぴょんと飛び上がったかと思うと、次の瞬間、広げた両脚、両腕を腰骨と首に巻きつけている。気づいた時にはもう、全身がしかるべき位置に密着している。そのたび園長は、自分の腰骨の窪みや、首の直径や、肋骨の隙間や胸の弾力や、何もかもが抱っこにうってつけの役目を果たしていることに気づかされる。自分の体に備わっている子ども専用の空洞が、必要な時だけ出現する不思議をしみじみとかみしめる。  無事その空洞に納まって、彼らは満足げな笑みを浮かべる。そうなればもはや重みなど感じない。彼らはそこでラッパを吹き鳴らすこともできるし、両手にクッキーを持って頬張ることもできる。一時間でも二時間でも、好きなだけ眠ることだってできる。それでこそ子どもだ。 か わ い す ぎ る … ! 子どもを引き寄せる才能を持ちながら実子にはめぐまれなかった園長と、子供たちの間に信頼と愛情が通っているのが文面から伝わってきて、読んでいてニコニコしてしまった。
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