
久保みのり|書店よむにわ
@kubomisan
2026年2月17日

風の払暁―満州国演義〈1〉
船戸与一
読み終わった
ずいぶん前に、義父が歴史小説を貸してくれた。「本が好きならどうぞ」と。
手渡されたのは、船戸与一『風の払暁―満州国演義一―』(新潮社刊)。正直に言うと、自分なら手に取らない類の本だ。
でも、せっかく貸してもらったのだから、次会うまでには読んでおきたい。そんな気持ちでページを開いた——が、やっぱり読めなかった。
実際そうだったのだから仕方がないのだろうけど、物語に登場する女性の扱いがあまりに酷い。読み進める気力がなくなって積ん読行きとなり、「いつか読む」という前提で義父に返さずにいた。
読む気になったのは、お正月に受けた通告がきっかけ。
「一巻だけないのは変だから、読まないなら返して」
その通りである。
ちょうど、ほんまにやるんかいなと疑っていた衆議院選挙が始まり、モヤモヤした気持ちで過ごしていた2月上旬。義父に会う予定が決まり、とうとう本を開いた。
やはりキツい場面が多いし、時代背景を勉強しないとついていけない部分もある。それでも、読み進めていくうちに意外な感覚が湧き上がってきた。
それは、「今、読むべき」という感覚。
「戦争前夜」という言葉は知っている。授業にも教科書にも出てきたし、ニュースやドキュメンタリーでも耳にしてきた。それで、この小説で描かれていたのは、手の届くところにある戦争前夜だった。
守りたい家族がいる人。
仕事で認められたい人。
しがらみなく自由なはずなのに、大義に想いを馳せる人。
何も知らず安全地帯から自由を謳い、そんな自分に首を傾げる人。
そんな人たちの暮らしの中に、戦争の気配が少しずつ差し込まれていくのだ。
印象に残ったのは、「もう後戻りはできない」という言葉が何度も出てくること。「じゃあ、どこまでなら後戻りできたの?」と考え込んでしまう。
「ああ、戦争ってこうやって始まるのかもしれない」と、ぞわぞわした。
どれだけ好戦的でも、どれだけ思想が強くても、戦争そのものを目的にしている人は少ないはずだ。それでも、気づいたときには歯車ががちがちに絡み合っていて、後戻りできなくなるんだろう。
作中には、こんな言葉が出てきた。
「建築家や芸術家が自由主義者であろうといっこうにかまいはしない。しかし、政治家や軍人がそれだと困る。現実を処理するには、自由だの権利だのって甘ったるいことは百害あって一利なしだ。」
単行本 p.206
特高警察 間垣徳蔵の言葉
これは、今の社会の空気に重なるかもしれないと思った。——政治を、もっと知りたい。現実の処理法を、もっと知らなければならない。
人が貸してくれた本。
返すタイミングで、しぶしぶ読み始めた本。
そういう本に、ここまで胸を締め付けられるとは思っていなかった。
本を選ぶとき、つい「好きな本」「気持ちよくなれそうな本」に手が伸びる。でも、苦手な本だって自分の視界を広げてくれることを忘れてはいけない。 出会えてよかった本だった。

