ゆき
@yu-ki
p80
『盆栽よ、盆栽』
佐伯の変化に戸惑う宙にそう言ったのは、花野だった。
『野放図に枝葉広げて気持ちよく咲くのは楽に見えるかもしれないけどさ、大きくなってくるとなかなか大変なんだよ。枝が重くて折れちゃうこともあるし、栄養が足りなくなって枯れちゃうかもしれない。自分を守るために自分自身を剪定しなきゃいけないときって、あんのよ。でもそれは自分の芯、幹を守るためだから、幹は絶対失われないのよ。だから、大丈夫よ』
ゆき
@yu-ki
p105
『おっきい声で言ってくれたら、それくらいは聞こえるから』
花野はそう言ったけれど、それなら、大きな声で叫んで良いのか不安にさせないでほしかった。誰かの次にしか大事にされていないのだと思えば思うほど、自分のことを主張できなくなった。柘植をだいじきするすがたをみれば、それが自分より大切なひとなのだろうと思ってしまえば、声を上げる勇気などなかった。
ああ。わたしは、ほんとうはものすごく、寂しかったんだな。
ゆき
@yu-ki
p119
「あのね、おじいちゃんがね、ピカソが大好きなの」
「ああ、知ってる。わたしも、何度かピカソの話を聞いた」
「あ、じゃああれも聞いた?ピカソの恋人の中で一番インスピレーションを与えたと言われている女性」
「知ってる。え、もしかして」
「そう、マリー・テレーズ。ママがね、おじいちゃんを喜ばせようとして勝手に名前をとったんだって。信じられないでしょ?あたしの名前は、親への機嫌取りでつけられたものなの」
ゆき
@yu-ki
p122
宙は、マリーの言葉に既視感ばかりを覚えていた。
「宙ちゃん、あたしが淡々としてるから呆れてるんじゃない?これでもちゃんと、哀しんだことも恨んだこともあったんだよ。どうしたらいいんだろうって悩んだ夜は数知れず、だよ。でもね、あたしは悟ったんだ。『母親』を求めて接するから傷つくんだよね。『家族』だと思えばいいの」
〜
「ただの理想なんだよ。アイドルみたいな、ファンタジーみたいな、ええとなんて言うんだっけ。ああ、そうだ、偶像!偶像なんだよ。素敵な母親なんてのはどこにも転がっていなくて、お母さんはただの『家族』なわけ」
「ただの、家族、、、」
「そう。家族って、ちゃんとした意味知ってる?あたし、一度辞書で調べたんだ。家族とは、夫婦とその血縁関係なあるものを中心として構成される集団。つまり、「母親」も「子ども」と、ひのぬの条件のもとの集まりの中での名称に過ぎないの。〜」
ゆき
@yu-ki
p131
「わたしはやっぱり、カノさんと柘植さんのこと、嫌だなと思う。しちゃいけやいこと、誰かを傷つけてしまうことを、自分の我儘でしちゃ、だめだよ。きちんと生きてるひとたちが、バカみたいだもん」
花野がまた、頷く。
「でも、家族だから。わたしと花野さんは、家族だから。今回は、もういい。いいから。ただ、二度と、絶対にしないで」
ゆき
@yu-ki
p137
「オレさ、花野さんの望まむような『恋人』にはなれない。いつまで経っても、自分の後をついて回ってた後輩ってイメージから抜け出せねえんだよ。でも、『家族』になら、なれると思うんだ。オレは、花野さんのこと全部、これまでのことも何もかもがひっくるめて好きだし、全部納得して付き合っていける。宙だって、可愛い。だから『恋人』じななくて、『家族』。ときめきとかそういうのは足りないかも知れないけれど、安心感だけは、あげられると思う」
そう言う佐伯の顔はどこまでもやさしく、真摯だった。
ゆき
@yu-ki
p156
「自分を持つって、難しいもんだなあ」
〜
「自分を持つ?」
「うん。他人の意見に振り回されることって、よくあんじゃん。真治の新しい彼女じゃないけどさ、オレたちって経験不足で、ミジュクだからさー。自分の考えを維持する方がいいのか、新しい選択肢を受け入れたらいいのか、判断つかないことだっていっぱいある。」
ゆき
@yu-ki
p202
「オレは花野さんに、誰かと手を取り合って眺める景色がどんだけ綺麗か教えてもらった。そして、同じ景色を同じ目で見られる存在がどれだけ大切かも、教えてもらった。智美となら、もう一度あの景色を眺められるかも知れない、そう思えたのは花野さんと共にいた時間があったからだ。花野さんとの時間があったからこそ、オレは智美と結婚したいと思えた」