TOKYO REDUX 下山迷宮

4件の記録
- のーとみ@notomi2025年3月14日かつて読んだデイヴィッド・ピース「TOKYO REDUX 下山迷宮」、ようやく読了。序盤読んでた頃、色々バタバタしてて中断してたら、そのまま時間経っちゃって、NHKの下山事件のドラマ見て、やっぱりちゃんと読まねばと読み始めたら、これが面白いけど、迷宮って言ってる通りの仕掛け沢山で、読むのにかなり時間かかってしまった。まあ、この人の小説は文体も展開も、ちょっとした描写に至るまで全部に仕掛けやダブルミーニングがあって、場面転換がヌルッとシームレスに行われるから、1行でも飛ばしたら、もう話に置いていかれる。さらに今回、アメリカ的な本場ハードボイルドの文体と、日本的な探偵小説文体と、和製ハードボイルド文体と二人称文体が、それぞれに意味を持って書かれていて、それらが改行ごとに変わっていったりする。だから、すっかり小説に没頭できるのに物語は凄く掴みにくく、明晰なロジックなのに、どこかで線がもつれていくような感覚になる。ノワール怪談でサイコスリラーを描いて小平事件の裏側を抉った一作目、能のスタイルを借りてゴースト・ストーリーの手法で帝銀事件の裏に蠢く人々を描いた二作目を丸ごと含んで、下山事件の決着を昭和天皇の崩御と重ねて、戦後の終わりを描いて今作は、東京三部作を見事に完結させていて物凄い。ちゃんと一作目の刑事が重要な役割で出てくるあたりのサービス精神も見事。 そのぐちゃぐちゃの迷宮の果てに、きちんと下山事件の謎解きも逃げずに書いて、本格ミステリとしても決着を付けるのもカッコいい。しかもフィクションとして書かれた事件の真相は、私にはこれまでの下山事件の推理の中で一番腑に落ちるものだった。基本ラインは松本清張説と同じなのだけど、それにしてはGHQサイドが下手を打ちすぎてる、それ故に決定的な解決に至らなかった理由が、ここではきちんと説明されている。出来過ぎの上に、とても感傷的な結論だけど、鉄道大好きおじさんの死の真相としてとても美しいと思う。 で、私が、下山事件をとても重要な事件だと思ってしまう理由もこの本読んで納得できた気がする。要するに私、GHQと戦争責任者たちの結託が、その後の日本の政治に直結したことが、本当に気持ち悪いと思っているのだった。そして、この小説は、その気持ち悪さを徹底して抉る。むしろそこが下山事件の犯人探し以上に重要なことだというように。そういうことだなと思う。昭和天皇がいなくなっても、GHQと大日本帝国の癒着は終わらなかった、そうやって日本の戦後はうやむやに終わる。そういう物語をイギリスの作家が長い年月かけて書いて、ちゃんと日本でも翻訳されて出版されている。それが救いかな。しかし、せっかく文庫化された一作目「TOKYO YEAR ZERO」も、二作目「TOKYO YEAR ZERO II 占領都市」も版元品切れだよ(泣)、文春、しっかりしろw



