いらっしゃいませ、今から授業を始めます。

2件の記録
あんどん書房@andn2026年5月18日読み終わった推しを、語らせてください。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ブタコヤブックス店主/小学校非常勤講師・船張真太郎(さん)。私はこの人物こそ「今もっとも面白いエッセイの書き手」だと、割と真剣に思っている。 【本書のここがすごい①】 「ユーモアが炸裂している」 古民家の天井ぶち抜きでハムナプトラ状態になったり、百貨店で教卓を買ってフロアを疾走したり。それ自体はまあそういうこともあるよなぁという場面場面なのだが(あるか?)、それをオモロく文章に落とし込むセンスが天才。改行をうまく使ってタメを出してからのバーン!な出し方も素晴らしい。好き。 個人的に昨今の「面白い文章」ってネット的なものに偏りすぎている節があると思っている。スラングを上手く使えるとか、捻くれた大喜利ができるとか。それはそれで面白いのだが、船張さんのユーモアはもっとなんというかこう、小学生でも理解できて笑えるタイプなのだろう。絶対授業中に何箇所かお笑いポイントを仕込んでくるタイプの先生だもん。 そして、そういうハイコンテクストじゃない、プリミティブな笑い(?)は疲れた大人にも効く。効き目抜群サロンパス。書いてて引っ張られていくのがもう好き。 【本書のここがすごい②】 「教え子じゃないのに「先生…!」という気持ちになる」 毎回書いているけれど、ユーモアと真面目さのバランス感覚が非常に良い。そして、真面目なパートが心にすっと入ってくる。 たとえば、祖母の葬儀で叔父と会ったことについて書いた「別れ 2025.9.15(月)」のこんな一文がとても素敵だ。 “久しぶりに会った叔父とは、亡くなった祖母を通じての関係が強かったので、もう会うことはできないのかもしれないと思ってしまったが、私が本屋という場を開いたことで、「またお会いしましょう」という最後の挨拶の言葉が社交辞令ではなく、きちんと温度をもつ言葉に変わったのが嬉しかった。”(P86-87) 一文としては長いこの箇所も、読点で繋げてことばを探りながら書かれた丁寧さみたいなものが伺える。そこが圧倒的に信頼できるのだよなあ。 そして、苦労話的な内容であっても決して苦労話で終わらせない配慮。これも私の勝手なイメージかもしれないが、エッセイや日記には自分の内面を鋭く抉り出して書き、「共感」で読まれることを求めるような文章も多くある。個人的にそういう色の文章は疲れている時になかなか読めないので、ここの安定感というか、ちゃんと線引きがなされている感じはとても安心して読めるのだ。 【本書のここがすごい③】 「ご婦人から見た店主の日記が収録されている」 改行前後の多忙な時期の店主を観察した「本屋開業中年男性観察日記」「本屋営業中年男性観察日記」が合間合間に掲載されている。この淡々と観察してるトーンが箸休め的な感じでとても良い。一方で皿洗いをサボった時には「イラっとした」なども包み隠さず書かれていて、それをそのまま掲載できるというところに、お互い信頼しあっているような関係性の良さが伺えて尊い。仕入れ本の中に欲しい本があって買い取っていたりする下が超ほっこり。 ということで、自分にとってとにかく安心して読めるのが船張さんのエッセイだ。この良さはもっともっと広まって欲しい。ぜひ商業出版や原稿執筆などもじゃんじゃん舞い込んで、第一線で活躍して欲しい。もちろん、本業が大変になりすぎない範囲で。 草葉の陰から応援しています。 本文書体:ヒラギノ明朝体 表紙・裏表紙イラスト:むつみ・せいのすけ 印刷:ちょ古っ都製本工房