息
トーマス・ベルンハルト
今井敦
松籟社
2023年5月16日
1件の記録
  • 自伝五部作の三作目。著者十八歳頃の出来事を綴った作品である。 シリーズを通して改行の一切ない怒涛のテクスト。最初は困惑したが、このリズムがもはや心地よい。 重篤患者が収容される、死が約束された病室。そこで自己の死、他者の死と対峙する時間が描かれる。 威厳などまるでない、赤裸々な死。 その姿を前にして、人には十人十色の生き方があるように、十人十色の死に方があることを知る。 切迫感に満ちた描写は、生の意味、生のはかなさ、そして死の恐ろしさを読者に強く問いかける。胸が苦しい。これは精神が元気なときに読むべき作品だ。 もっとも印象に残ったのは、敬愛する祖父が語る「わしら二人には、将来を自分のものにしようという最高に強い意志がある」という言葉である。 死を目前にすることで、人間の意思はかつてないほど輪郭を強める。これこそ哲学である。哲学というのは机上の空論ではなく、まさにこうした生の中にこそ息づいているのであろう。 また療養中、ベルンハルトは膨大な読書を重ねており、それが文学へ進む大きな契機となったこともうかがえる。
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