わたしは灯台守

5件の記録
- fuyunowaqs@paajiiym2025年5月20日読んだ最後に表題作の中編を読んだ。 独りよがりではた迷惑、病的な認知のゆがみと錯乱すら疑いたくなるほど徹底した個人の物語なのに、胸の内を描写する言葉があまりに美しくて受け止めかたが難しい作品だった。はっきり言えるのは、海にモノを投げ捨てるのはやめてね、ということだけ。 収録されているほかの短編と同様、狭い世界で、主人公だけが「間借り人」という自意識に翻弄されている。厄介ごとをもたらす世俗とのつながりを遮断しようとする一方で、すべてを断ち切る胆力はなく、顔も名前も知らない他者をストレスの捌け口にしてしまう。不愉快な要素を排除した完璧な理想を追いかける姿は、奇妙を通り越してだんだんと恐ろしいものに見えてくる。ひきこもり・ぶつかりおじさん・ネトウヨの性質、よくない側面をつめ込んだような言動。愛情と解放とを求めながら孤立無援を恐れる妄執が苦悩の源だから、おそらく主人公が満たされる日は来ない。 でも、他者の介入なく誕生する人間はいないし、単独で生きていける人間もいないから、あらゆる人は、いつでも・どこにいても・誰に対しても「間借り人」であると思う。 以下210ページから引用。 "翌日、わたしは海軍省に電話をかけた。彼らは当惑しきっていた。電話の相手は涙にくれていて、彼が発する言葉の母音には小さな黒い喪章がつけられていた。子音は喪服を着ていた。"
- fuyunowaqs@paajiiym2025年5月12日読んでる再読5〜8作目をゆっくり読んで、腑に落ちない物語が続いたので、あらためて最初から8作目までを読み直した。初読の印象のとおり、1作目と2作目が好みだという再確認になった。 いずれの作品も、他者との親交、未知なるものの発見、頂上や高み、幸福だった過去など、手に入らないものを求めつづけて殻に籠もる男性の孤独を描いているように感じた。美しいことばによる情景描写と新約聖書のエッセンスが特徴的だが、個人的に恋愛の機微を愉しむ素養を持ち合わせていないため、主人公の飢えや悩みを深く受け止めることが難しい。
- fuyunowaqs@paajiiym2025年5月10日読んでる4作目『地獄の入り口からの知らせ』を読んだ。 これは今までの3作品とは毛色が異なる物語のように感じた。発想はささやかながらユーモアがあり、主人公の内面については許容される範囲での気色悪さが描かれている。ただ、物語の向かう先があらかじめタイトルで"地獄"と定められている理由はわからなかった。
- fuyunowaqs@paajiiym2025年5月8日読んでる2作目と3作目を読んだ。 『六時十八分の風』を読んだあと、よくわからないけど不思議ですこし怖くてなんとなく好きだな、と思って、もう一度読み直したけどやっぱりわからなかったので、そのまま『国境』を読んだら、さらにワカラン度合いが上がってしまい、楽しくなった。『国境』のラストはとてもよかったけど、全体としては2作目のほうが好みの雰囲気だった。 わからないのに好きとか楽しいとか感じるのはめずらしい体験なので、わからないを引きずったまま明日は4作目を読みたい。
- fuyunowaqs@paajiiym2025年5月7日読み始めた"灯台守"というワードに惹かれて手に取ったら、ひとつの長い物語ではなく、9つの作品を収めた短編集だった。 はじめの『列車が走っている間に』は、短編集の1作目にふさわしい、完璧な導入だった。メタファーではあるが、列車に乗る主人公と同調して本の世界に連れていかれるような錯覚を得た。