
fuyunowaqs
@paajiiym
2025年5月20日

わたしは灯台守
エリック・ファーユ,
´Eric Faye,
松田浩則
読んだ
最後に表題作の中編を読んだ。
独りよがりではた迷惑、病的な認知のゆがみと錯乱すら疑いたくなるほど徹底した個人の物語なのに、胸の内を描写する言葉があまりに美しくて受け止めかたが難しい作品だった。はっきり言えるのは、海にモノを投げ捨てるのはやめてね、ということだけ。
収録されているほかの短編と同様、狭い世界で、主人公だけが「間借り人」という自意識に翻弄されている。厄介ごとをもたらす世俗とのつながりを遮断しようとする一方で、すべてを断ち切る胆力はなく、顔も名前も知らない他者をストレスの捌け口にしてしまう。不愉快な要素を排除した完璧な理想を追いかける姿は、奇妙を通り越してだんだんと恐ろしいものに見えてくる。ひきこもり・ぶつかりおじさん・ネトウヨの性質、よくない側面をつめ込んだような言動。愛情と解放とを求めながら孤立無援を恐れる妄執が苦悩の源だから、おそらく主人公が満たされる日は来ない。
でも、他者の介入なく誕生する人間はいないし、単独で生きていける人間もいないから、あらゆる人は、いつでも・どこにいても・誰に対しても「間借り人」であると思う。
以下210ページから引用。
"翌日、わたしは海軍省に電話をかけた。彼らは当惑しきっていた。電話の相手は涙にくれていて、彼が発する言葉の母音には小さな黒い喪章がつけられていた。子音は喪服を着ていた。"
