自称詞〈僕〉の歴史

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- ハム@unia2025年5月9日読み終わった日本語に一人称のことばが多いことは日本人であればわかると思うけど、「僕」という一語をとって歴史を概観し、その役割の変化を見ていく試みはなかなかニッチなようでいて日本人を語るうえで大事なことだと感じた。 明治維新につながる歴史の流れの中に「僕」の使用が鍵としてある。 身分が平等になっていく過程にも「僕」が絡んでいる。 平等のあとでは大学紛争などを経てむしろ社会から切り離された自由な自己、私的な小さな世界を表現する自称詞となっていった。 歴史の転換点において「僕」という自称詞のささやかな選択がバタフライエフェクトの如く機能しているのが面白すぎる。 現代においてはジェンダー論を語るうえでも「僕」は有効な切り口を与えていて、本書はジェンダーにはそこまでつっこんでいないが十分にカバーできるテーマ性があるのがわかる。 〈歴史の流れを左右するのは、政治家や軍人の決断ではなく、人びとが日々の営みの中で下す小さな判断の積み重ねなのではないか。そう考えることは、私たちに力と責任の感覚をもたらすだろう〉 「僕」ひとつでここまで壮大に論じることができる学問の自由性と、そうした「僕」という小さな選択による歴史のダイナミズムに驚かされた。