かかし

かかし
かかし
ロバート・ウェストール
Robert Westall
金原瑞人
徳間書店
2003年1月1日
2件の記録
  • ぱち
    ぱち
    @suwa_deer
    2025年9月1日
    もの凄いジュブナイル小説に出会ってしまった。 ネタバレを若干しつつ所感を書き記したい。 主人公は14歳の男の子サイモン。 幼い頃に亡くなった軍人の父親を尊敬するあまり神格化してしまっている。 寮生活を送っていたが母親が再婚し義父の家で夏休みを過ごすことになる。 義父は風刺画家で他人の悪い面を誇張し戯画化した絵を売ることを生業にしていて、亡くなった軍人の父親とは真逆な存在。 必然的にサイモンは義父を絶対に認めない態度を取り続けることになる。 最初は義父という存在に対する嫌悪感から始まるのだが、それが義父と仲睦まじくする母親や妹に対しても怒りの感情が徐々に高まっていく。 (サイモンの評価とは対照的に、義父は家族思いでなかなかに良いやつで、サイモンの不遜な態度も許すほどである) 自分が尊奉している父親の存在を全く忘れて過ごしている家族に対する怒りであると同時に、その感情抜きでも家族と上手く仲良くやれない、その輪に入ることができない自分が蔑ろにされているという感情とが共鳴することで負の感情が高まってるように見受けられる。 サイモンの振る舞いは、最初の方こそ正当な怒りから発する言動に見えたものの、徐々に行き過ぎた暴力的なものを伴ったものになっているように見えてくる。 そんなサイモンの負の感情がピークに達した時、ついに「かかし」が3体現れる。 義父の家の目の前にカブ畑があって、それを挟んだ向かいに古い水車小屋があり、かかしはその近くに出現する。 本のタイトルにもなっている通り、この「かかし」がまた大変不穏な存在として描かれる。 サイモンの感情に共鳴するようにサイモンたちの暮らす家に少しずつ近づいて来るのだ。 サイモンが最初に義父の家に来た日にその水車小屋のなかに入るのだが、この時に小屋で昔暮らしていたであろう3人の洋服を見つける。男物が2つと女物が1つ。昔この小屋で3人の男女たちをめぐってある事件が起きたらしいことが物語終盤で言及される。 この3人(の悪霊?)がサイモンの負の感情に呼応してかかしとして蘇るわけだが、問題なのはこのうちの2人の男たちのキャラクター造形だ。 詳しくは書かないが、サイモンの2つの側面をそれぞれが背負い極端な形でつくられたキャラクターのように解釈できるのではないかと思う。 かかしだけでなくその他にも、本筋とは直接の関わりはない小話的なエピソードが挿入されているのだが、そのどれもが何だか意味深な要素が盛り込まれていて、物語全体がすごく入り組んだ話になっていると同時に、それが独特で濃密な不穏な気配を漂わせている。 いろいろと語りたい要素はたくさんあるのだけれども、とにもかくにも物語の展開としては、ここまで追い込んでしまっていいのだろうか?と心配になるくらいサイモンは最後の最後まで精神的に追い込まれていく。 この追い込まれ具合というのも考えるのが難しくて、単に状況的なものだけでないというか、その状況そのものを主人公自身が作り出している面があるように思える。 こんなに主人公を追い詰めないといけないのだろうか…という心持ちが若干湧くものの、物語の結末を読むとやはり追い詰められた先にしか出てこないものが描かれているのは間違いないし、そしてそれは「かかし」を出すことでしか描けないことが物語としても回収されていて大変驚いた。 人によってはこれを救いとは見ないかもしれない。 でもこれは物語でしか救えないものがあるというひとつのアンサーなのではないかなと僕は思った。 正直あまり子ども向けとは言えないけど多くの人に読んでみて欲しい作品。
  • ゴトウ
    ゴトウ
    @ptk510
    2025年9月1日
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