七つの人形の恋物語

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- 空色@kagimusume272025年5月20日私が読んだのは、王国社の装丁版で、印象的な装画は縦石修志さん。視覚から入るインパクトは強烈で、私にとってこの物語にはこの絵しかない。 1950年代に書かれたものらしいけれど、読み始めればすぐににその頃の湿って猥雑なパリの空気の中に入り込める。気持ちが良いかどうかは別にして。冒頭から絶望に満ちている。何しろ、主人公の名前がムーシュ。ムーシュというのは蠅、という意味があるようだけど、主人公が、蠅ってどういうこと。 ムーシュはブルターニュ人の魂で、操られているはずの人形たちを7つも受け入れる。この人形たちは、実際、あやつられているのではなくて、完全にそれぞれ独立した一人一人別の人格で生きている所が重要。 愛なく育った心が救いを求めて分かれて行き、残ったのは本当に凶暴な荒ぶる魂だけなのか。破滅を救うのはいつも清らかな心を持つ者なのは何故なのか。清らかで無垢な心は、優しく穏やかな場所へはどうして辿り着けないのか。読みながら考えるのは常に、幼少期の愛は無条件に溺れるほど与えられるべきだと言うこと。無垢な心はその絶望を救い負の循環を断ち切る為に与えられる試練なのだろうか。 ずいぶんひどい。 とは言え、この物語は最初から最後まで読み手の心を掴んで離さない、恐るべき素晴らしいストーリーです。