富士日記 中巻 改版

3件の記録
noko@nokonoko2025年5月27日買った読み終わった心に残る一節ワンピース仕上る。花子に着せてみたら、あまり似合わない。しかし私は黙っている。 ピンク色の豚と、黒色の豚がいる。全身黒くて右の前足だけピンク色の豚もいる。間違って生れてきたようで気の毒だ。餌箱の中一杯にねそべってしまっている豚がいた。自分は満腹だが、他の豚に餌を食べさせたくないのだ。その気持ちはよく判る。 「見せたやな さるすべりの花なよなよと うす桃色が風になびくを」。原爆が落ちたとき死んでしまった夫に、見せたいなと語りかけているのだそうだ、このやさしい歌は。自分もあとから原爆病で死んでいった女の人の歌だ。さるすべりが咲いていると何だか必ず思い出してしまう。 庭へ出ると、雲はなく、星がうっすらと出ている。月が南隣りの高い白樺林の上に出ている。ぴかぴかした白金の円盤のようだ。庭中に月の光は一杯。おっとりと明るい。あの世というのがあるとしたら、こんなところなのかもしれない。よく見ないで、一寸だけ見て、ナンマンダブツといって家の中へ入る。

