日本怪談集 奇妙な場所

3件の記録
- 紫嶋@09sjm2025年9月11日読み終わった借りてきた様々な作家による「怪談」を集めたアンソロジー。 上下巻のうち、こちらは上巻にあたる。副題に「奇妙な場所」とあるように、とりわけ家や土地、地形などに縁のある怪談が揃えられており、その分類の仕方にはある種「怪談と場所の性質や関係性」に着目する学術的な視点をも感じる。この視点を突き詰めれば、文化人類学的研究テーマにもなりそうだ。 今回手に取ったのは新装版だが、元となっている本は1989年の刊行ということもあり、収められている話はどれも、良くも悪くも「古臭い」。 この印象は、明治大正期の作家の作品も多く掲載されているからと言えるが、中には1984年に初版が発行された本からの出典もあるため、当時としては新旧の怪談を幅広く集めたというコンセプトだったのだと思われる。 この「古臭さ」が良い味を出している。中には文章がとにかく難解であったり、現代的ホラーに親しんでいる身からすると「で、オチは…?」と拍子抜けしてしまう作品もあるのだが、それでも行間から漂ってくる、木造建築のきしみや物陰の温度、沼や川の澱んだ水の臭い、ふと肌を撫でる生ぬるい風、人間の凄惨さと淫靡さと業、幽霊とも妖怪ともつかぬ存在の名残……などが、タイムカプセルのように古い時代の空気を運んできてくれる。 たしかにこれは、ホラーというよりも「怪談」と呼ぶに相応しい話の数々だなぁと思う。 こうした本でなければ出会うことのなかった物語、知ることのなかった作家にも沢山触れることができた。これを機に、惹かれた作家の著書も読んでみようかと思った。