秋風記 太宰治集 (古典名作文庫)

秋風記 太宰治集 (古典名作文庫)
秋風記 太宰治集 (古典名作文庫)
太宰治
千歳出版
2023年9月29日
1件の記録
  • はる
    はる
    @tsukiyo_0429
    2025年6月24日
    『愛と美について』一作目の小説。 . あの、私は、どんな小説を書いたらいいのだろう。私は、物語の洪水の中に住んでいる。役者になれば、よかった。私は、私の寝顔をさえスケッチできる。 (P249) . この書き出しから、ぐっと心を掴まれた。 自分の寝顔をスケッチできるということは、寝ているときでさえどんな顔をしているのか分かる、それほどまでに「役を演じている」ということなのだろう。 生まれて来なければよかった、という気持ちが、主人公とKの中に蔓延っていた。 自分の内側に漂う希死念慮を、浮かべたり沈めたりしているように見えた。 それでも怪我をしたら病院に行き、治してもらう。 そのやりきれない矛盾を抱えながら、それでも生きていく、生活をしていく。 そんな二人に強さを感じたと同時に、とても胸が締めつけられた。 とても好きな作品だった。 . 『読者に』(『愛と美について』冒頭) こんな物語を書いて、日常の荒涼を彩色しているのであるが、けれども、侘びしさというものは、幸福感の一種なのかも知れない。私は、いまは、そんなに不合せではない。みんなが堪えて、私をゆるしてくれている。思うと、それは、ずいぶん苦になることばかり、多いのであるが。 (P248) . ひとことでも、ものを言えば、それだけ、みんなを苦しめるような気がして、むだに、くるしめるような気がして、いっそ、だまって微笑んで居れば、いいのだろうけれど、僕は作家なのだから、何か、ものを言わなければ暮してゆけない作家なのだから、ずいぶん、骨が折れます。僕には、花一輪をさえ、ほどよく愛することができません。ほのかな匂いを愛ずるだけでは、とても、がまんができません。突風の如く手折って、掌にのせて、花びらむしって、それから、もみくちゃにして、たまらなくなって泣いて、唇のあいだに押し込んで、ぐしゃぐしゃに噛んで、吐き出して、下駄でもって踏みにじって、それから、自分で自分をもて余します。自分を殺したく思います。僕は、人間でないのかも知れない。 (P252〜253)
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