寝煙草の危険

8件の記録
ゆい@no1sin2026年8月7日読み終わった>私が求めているのはポルノだ。ヘレンや『ヴェニスに死す』のタッジオやイッポリートみたいな病人はエロティックで、何か訴えるものがある。そしていつも脇役だった。イッポリートは理想的だ。美しく(ドストエフスキーはわざわざムイシュキン侯爵に「とてもきれいな顔をしている」と言わせていて、私は体がぶるっと展えたものだった)、うら若く、明らかに瀕死で、一途で脆く、ひねくれ者だ。でもしゃべりすぎるくせに、めったに気を失わないし、顔の青白さや汗、咳の描写に私もさすがに辟易した。もっとデータが、明白なエロスが欲しかった。書物のほうがありがたいし、自分が何フェチなのか数え上げるのに役立つ。神経の病気は素通りする。つまり痙攣だとか知的障害だとか麻痺だとかは好みでなく、神経系には明らかに興味が持てない。なぜか腫瘍はどんな種類のものにも目が向かない。癌は汚らしく感じ、社会的に買いかぶられすぎていると思うし、少々俗悪だ(あの奥さん、癌なんですって、と老婦人たちは言った……しかも本人には適当にごまかしてるらしいわ!)。主人公が癌を患う映画も多すぎる(病気の主人公は、"世の鑑”みたいなキャラクターでなければ好きだ)。腎臓病は本当に品がない。腎臓が機能していなければ死ぬのは当然だが、私にはどうでもいいことだ。だって、”腎臓"という言葉自体、なんだか醜悪だ。消化器系みたいな不潔なものは、言うに及ばず。君が何を好むか、何が私をとらえて離さないか、はっきりしている。そして、自分の専門分野がいざわかると、それだけに集中した。私が好きなのは肺の病気(ヘレンやイッポリートほか、そうしたフィクションの結核患者の影響なのは間違いない)と心臓病だ。心臓については無粋な側面もあるが、それは相手が老人(あるいは、コレステロールみたいな困った要素が幅を利かせ始める五十代以降の中年)の場合だけだ。若い病人なら……とても優美だ。まず、一般に、自分でなかなか病気だと気づかない。もし美男美女なら、それはある種ひそかに傷ついている美しさということだ。またほかの病気では余命が読める場合が多いが、心臓病の場合、患者はいつ死ぬかわからない。(P.136)
ゆい@no1sin2026年8月7日読み終わった>今も懐かしい。背中を撫でる手、エリナの強いこだわりを笑う声、彼女をなだめようとする無駄な努力、長風呂ぶり、本当のところ食べるのがあまり好きじゃないこと、彼の腰骨、手を動かしながらしゃべる姿。また彼の写真を見られるようになりたいし、エリナより猫ばかり気にかける彼にまた焼きもちをやきたいし、日差しがあるときにはいつもサングラスをかける彼と散歩をしたいし、明け方の電話が恋しいし、寝顔を眺めたいし、よく黙りこくるけれど、あんまり長いこと黙りこくられるとこちらはいらいらしたものだったし、朝になると行かないでとすがりつき、二時間後には帰ってくるとわかっているのに行ってしまうと泣きわめき、彼女のほうはけっして、そう、けっしてそんなふうに何も知らせず、挨拶もなく、無下に彼を置いて出ていったりしやしないのに、だけどもし彼が死んでいたらどうなるかはわからない、彼が死んでいる可能性はある、だって彼の消息を誰も知らないのだから、私に教えないようにしていたのならいざ知らず、だけど隠したりするものかしら、食事も喉を通らずに血を吐くのを見、カバーが裂けるまで枕を噛むのを見、悲嘆に暮れ、酔いつぶれ、メールが来るのを何時間も待って画面を睨み続けるうちに頭ががんがんし目が赤く充血しキーボードに突っ伏して泣くのを見、電話が来るのを待って一歩も外に出ないのを見ていたのに。そして、ありとあらゆるくだらない慰めの言葉に、私がふざけるなと怒鳴るのを聞いていたのに。前に進まなきゃ得るは捨つるにありそれでも人生は続くんだまずはセックスすべきだ男は星の数ほどいるさ君は美人なんだから踊りに行こう誰か紹介するよ。(P.116)






