翻訳夜話2 サリンジャー戦記 (文春新書)

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みゆわ@miyuwa2025年9月30日買ったかつて読んだ感想読書日記’The Catcher in the Rye’の凄さはサリンジャーの凄さなのか、村上春樹の凄さなのか、どちらかわからなかったが、結局両方の凄さであることがわかった。 まずサリンジャーの凄さは、語り手と読み手の親密度を異常なまでに高めるホールデンの語り口調を作り出したことだ。彼の言葉は体系化されておらず、また先のことを考えて喋ってはいない。それはサリンジャーがそのようにして実際に執筆していたからだろう。このスタイルは時に自己矛盾を読者に見せることになるが、それもまたリアルとして受け入れられる。 村上春樹の凄さは、ホールデンを含めた各登場人物の性格や役割を高解像度で理解し、「本来」そう話すべき話し方で訳したことだ。例えばフィービーは兄であるホールデンを「お兄ちゃん」とは呼ばず「あなた」と呼ぶ。これは私が’The Catcher in the Rye’に魅せられた要因の一つだ。フィービーが冷たくも聞こえる呼び方でホールデンを呼ぶのは、彼女が妹としてだけの役割で物語に登場しているのではなく、ホールデンの精神的な対話相手として登場しているからだと思う。また村上春樹は繰り返される同一の言い回し(ホールデン独特の)を工夫して多少のバリエーションをつけたらしい。このように原作に忠実になりすぎない加減もまた絶妙だ。 結果として、この本は2人の偉大な小説家によってここまで魔力を持った小説となったのだろう。



