勝村巌 "忘れられた日本人" 2026年3月3日

勝村巌
勝村巌
@katsumura
2026年3月3日
忘れられた日本人
民俗学者、宮本常一ならこの一冊という本らしい。岩波新書の木村哲也著『宮本常一 民俗学を超えて』を読んでいたら、道で拾ってしまった一冊。セレンディピティというか、生きているとそういうこともあるものだ。 新書が大変面白かったので、勇んで読んでみたが、これが大変な名著と感じた。 1960年にまとめられた一冊で元々は雑誌『民話』に連載した「年寄たち」という論考をまとめたもの。 宮本常一は旅に生きて、現地の人からの生の声をとことん聞き出した人で、訪れた村々で、その土地の物知りに話を聞くとなるととかく年寄りから話を聞く、ということになったのだろう。 第二次大戦の前後に宮本が実際に訪ねて言って収集した話が中心で、御一新(大政奉還にかかる日本の大きな政治的な転換)や戊辰戦争、西南戦争などにも出かけた人たちの言葉が残されている。 対馬に訪れての村の古文書を借りるという場合の寄り合いでの議論の様子をはじめ、村の中で若い頃に外に飛び出して色々と経験をして村に戻ってその経験を活かして、活躍した人(これを宮本常一は世間師として注目した)、祖父の話、橋の下の盲のコジキの話、女の世間の話など、古い時代の生活が生き生きと語られている。 とにかく人の話を聞くことの面白さというのが詰まっているので、読む本を探している人にはぜひお勧めしたい。 夜這いの話とか、昔の日本人の開放的な性にまつわる話は何かとおおらかで面白い。 盲のコジキが身を持ち崩した独白をまとめた「土佐源氏」などは、そういった人物の色恋の話が美しい思い出という形で述べられており、現代のポリコレでは計り知れない、人の業のようなものを感じさせる名文となっている。これだけでも読む価値はある。 そのほかにも様々な当人しか語り得ない、得難い話の記録と、そこはかとない無常を感じさせる宮本常一の実直なテキストが混ざり合って、なんとも言えない読後感の一冊となっている。 いま、こういう本を読んでおく必要がある気がする。読んでよかった一冊。
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