読書日和 "奇のくに風土記" 2026年3月4日

奇のくに風土記
江戸時代後期、紀州藩の本草学者 畔田翠山 をモデルにした時代幻想譚。 読み始めてから最後まで、 植物の瑞々しさや草や森の匂い、山の空気が 手に取るように感じられて、とても心地よい一冊だった。 物語は、主人公がまだ若い「十兵衛」の頃から始まる。 『天狗(てんぎゃん)』との出会い、 亡くなった父の幽霊のような存在、植物の妖精のようなものとの対話―。 ずっとファンタジーとして読んでいたのだけれど、 巻末の参考文献を見て、「あれ?実在の人物なの?」と気づき、思わず読み返してしまった。 草木の声がわかる翠山は、若いころ人との関わりが少し苦手。 けれど、師の孫である良直との関係や、与えられた仕事に没頭しながら年を重ねるうちに、少しずつ人にも心を開いていく。 天狗の姿も、童のようだったり若者だったり、 時には誰かの姿を借りたりする。 もしかすると、翠山の成長を映す存在なのかもしれない。 良直も翠山も、相手の言葉を素直に受け止めるところがあって、二人のやり取りを読んでいるだけで心地よい。 「美(う)っついなぁ」という表現もとても好きだった。 読んでいるあいだ、ただただ浄化されていくような感覚。 実はまだ和歌山県に行ったことがない。 物語に出てくる和歌山市の岩橋(いわせ)にも、 いつか訪れてみたいと思った。
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