
ハヤシKYヘイ
@heiheikyo1
2026年3月7日
破果
ク・ビョンモ,
小山内園子
読み終わった
60代女性の殺し屋が主人公となる韓国の小説がある。その情報だけですごく気になって記憶に残りつつ未読だった。そんな作品がミュージカル化し、日本で上演されるらしい。しかも主役を演じるのはあの、花總まり。
舞台俳優・花總まりといえば、日本で長らく人気のミュージカル演目『エリザベート』だ。私も大好きで、帝国劇場で彼女の歌を聴けた時は感無量だった。絶世の美貌を誇る皇后をずっと演じてきた花總さんが、ここにきて老齢の殺し屋を? 観に行くしかない!
ミュージカル『破果』のチケットをなんとか入手し、観劇を来週に控えている。
予習として怒涛の勢いで原作小説『破果』を読み、面白くて夢中で完走した。
苛烈な競争社会であり、家父長制的な価値観が強いとされる韓国において、老人であり、女性であり、家庭を持っていない主人公・爪角(チョガク)は本来、弱者性を象徴するはずの存在だ。そんな彼女が殺し屋を生業とし、エージェンシーから斡旋される仕事を請けて、ターゲットとなる人間(それは彼女より若い、男性であることが多い)を消して生計を立てている。設定だけですでに、韓国の社会構造を皮肉っているような気さえして、読みどころとなる。
姉とたくさんの妹と末っ子の弟がいて貧しかった生家から、口減らし的に裕福な親戚の家へと奉公に出たような爪角の生い立ちも、儒教思想から男児を授かるまで子を産むものだとする人が多かったという時代背景がにじむ。やがて彼女は奉公先からも出て行かざるを得なくなり、裏社会で金を稼ぐリュウという男と出会い、殺し屋家業へと身を投じていく。命を奪い奪われるかもしれない弱肉強食の極まる世界で、守るべき大切な存在を作ってはいけないというのが、爪角のルールだった。
老齢となり、いつまで殺し屋を続けられるのか。爪角が日々巡らせる思考は、今日の資本主義にもとづく競争社会を生きる我々の不安にも通じる。
飼っている老犬の無用(ムヨン)や、ある仕事で負傷した爪角の手当てをしてくれたカン博士との出会いがあり、独りで生きていくと決めていたはずの爪角が、他者やその大切にする別の他者を、思いやる気持ちを自覚していく。
そうして、過去の因縁から彼女を狙う別の殺し屋が接近してきて、スリル満点のアクションへと突入する終盤は手に汗を握った。
小説版のラストのシーンがとても好きだった。ミュージカル版はどうなるだろうか。たいへん楽しみです。

