
葉
@leaf
2026年3月8日
旅の彼方
若菜晃子
読んでる
@ カフェ
生きることと仕事することは別なのであった。
旅に出ていると、朝、目が覚めて、朝ぼらけを感じて、朝の日ざしを浴びて歩いて、空や周囲や地面をよく見て、そこに小さな世界を見つけて、日中を過ごし、夕方の光のいちばん美しい時間を知って、その時間を楽しむようになる。
ふだんの生活でも、時折心を揺さぶられる出来事がある。(中略)それらのことをすべて覚えていられたら、どんなにいいだろうと思う。そして少しでもそうしたことを記録しておきたいと思う。でもそうした毎日のことは、一瞬で過ぎ去ってしまって、木の葉が水に流れていくように流れていってしまって、いつか忘れてしまう。よしんば覚えていたからと言って、それは私のノートのなかだけのことであって、私が死んでしまえば、すべて消えてなくなってしまう。
無理してなにか思わなくていい。光る湖水とか、つがいの鳥が泳いでいく姿とか、湖面に漂う緑の藻とか、湖水にさしかかる木の枝とか、落ちて水に濡れた栃の実とか、そこに立っている葦とか、そういうものを見ているだけでいい。
見ているだけで、それが印象として自分のなかに残ればいい。それだけで充分なんだと思う。だからそれ以上になにかを思おうとしなくていい。
