ちゃそす
@1000book_zautusu
2025年10月5日
火車
宮部みゆき
かつて読んだ
7冊目。
「婚約者を探して欲しい」
突如として姿を消した関根彰子。
その消息を追ってくれとの頼みを、主人公は引き受けることに。
だが、彼女の軌跡を辿る内に、ある事実が判明する。
彼女は、関根彰子はではない──
関根彰子も彼女に成り代わっていた人物も、幸せを追い求めて何かから逃げ続けてきた。でもそれは、ゴールのない、延々と続く迷路だ。
作中の人物がこう言う。「蛇は思ってるの。足があるほうがいい。足があるほうが幸せだって」蛇が脱皮をするのは、いつか足が生えてくるのを信じているからなのだと。
蛇は、どうして足を欲しがってしまうのだろうか。
私たちはいつも、唯物的な豊かさに幸せを求めてしまう。
以前読んだ漫画の話を思い出す。神様が石ころに手足や、目耳をつけてあげようとすると、石ころは断るのだ。
「君にとって僕は完璧でないかもしれないけど、僕は自分が良いという自信があるよ」
欲しい欲しいと餓鬼のように求めても、もう十分です、という気持ちになることは決してない。
蛇には蛇の、石ころには石ころの幸せがあって、それは物質の有無では決まらないものだ。足るを知らないと、幸福という蜃気楼への渇望と飢えに苦しむことになる。
宮部みゆきの描く人物はどうしてこうも皆芯を持っているのだろう。
関根彰子に成り代わっていた人物も、決して単純な悪でなどではなく、ただ必死に生きていただけだった。一人で戦っていただけだった。……道を踏み外してしまったにしても。
登場人物の血肉の通った考え、行動を通して、作者の思想が伝わってくる。思い、主張が小説という形で具現化されている。
創作とは表現であり、こうあるべきだ、というお手本のような作品だと感じた。