ちゃそす
@1000book_zautusu
2026年4月4日
ジャガー・ワールド
恒川光太郎
読み終わった
41
太陽が昇り、沈み、また昇る。生き物が生きていく上で犠牲が必要なように、宇宙の運行にも犠牲を必要とする。
人々は、生贄の心臓を火に焚べる。神聖な戦いを神に捧げる。太陽が再び昇ることを願って。
とある国が滅びる時、生贄の運命から逃れた者たちは、それぞれの思惑の中で生き、死んでいった。
複数の登場人物の視点から物語は語られる群青劇として物語は進む。後半、キャラクターたちの運命が交わることで、物語は加速していく。
元生贄の少年、元生贄の最強戦士、生贄の運命から逃れた最高神官、家を追われ、生贄にされかけた元王子。
生贄文化を中心に、物語は動いていく。
アステカ文明に似ているな、と思ったが、マヤとアステカは時代は異なるものの地理的にかなり近い、ということで類似性に納得した。
レリィの言ったことを理解していたのは結局カザム・サクだけで、民衆には何も伝わっていなかった描写が心を打った。そのカザム・サクも、文字を占有したがったウェラス族の審判によって死に至る。時代の価値観を変容させる意見には保守的な力が働くのは当然だが、それにしてもかなり打ちのめされている。二人の蒔いた種はどこかで芽吹くのだろうか。現実世界では渡来したスペイン人によってマヤ文明は滅ぼされたことを考えると、カザム・サクの思い描いた生贄廃止と文字の共有による強固な国は生まれなかったのかもしれない。何にせよ、この先どうなるのかは読者の想像に委ねられる。
生贄、というと現代の価値観では壮絶な感じがするが、当時の価値観の中では合理的な理由によって行われているのであり、だからこそ自分がその対象になるでもしない限りは疑問もなかなか抱けないだろう。だからこそ生贄の運命から逃げる者たちは、そうでない人々よりも自分で考え、行動することができた。
世界の空気やそこで暮らす人々がミニマムな描写で生き生きと描かれる、今までにない作品だった。