ちゃそす "三体2 黒暗森林 下" 2026年3月5日

三体2 黒暗森林 下
三体2 黒暗森林 下
上原かおり,
劉慈欣,
大森望,
泊功,
立原透耶
37〜38冊目(上下セット)。  約400年後、異星の三体文明がやってくる。地球文明を滅ぼしに──。  敵文明は遥かに高度。智子によって地球文明の進歩は封じられ、地球上全ての情報は筒抜け。  打つ手無しかと思われたが、それでも人類は諦めなかった。  面壁計画。  選ばれた4人の代表の、人類すら欺かんとする、孤独な戦いが始まる。  三体人は思念で直接コミュニケイトするため嘘や偽りという概念がない、というのは2で新たに明かされた設定だ。その隙をついて人類が立案した起死回生の一手が面壁計画だ。智子は人類の思考までは読み取ることができない。そして、三体人には策略や謀略が理解できない。  誰にも計画内容を明かすことなく、個人の脳内で三体文明に対抗する計画を立案、実行する。これが計画の概要だ。  対して面壁者に対抗するため三体文明の刺客、破壁人が計画を明かそうと裏で暗躍する。    主人公の羅輯は国連にも、彼自身にも本当の理由はわからないまま面壁者に選ばれる。鍵は三体文明が唯一脅威と見做している、葉文潔から聞いた1つの理論。  理論の一端を垣間見たその時、彼は彼自身の破壁人でもあると理解する。彼自身が、彼自身の計画を理解しなければならない。  彼は快楽主義者で、いわゆる「ダメ人間」な一面のあるところが読者の共感を誘うが、一方ではちゃんと優秀で、面壁者としてお尻に火が着くと途端に有能な働きを見せるのは「やる時はやる」理想型の主人公でもある。  上巻の終盤に彼が動き出してから、そして下巻にその結果が現れてから、物語は加速する。三体文明が何を恐れているのか、なぜ人類に知られてはまずいのか。その答えは面壁計画によって最後まで隠され続ける。  面壁者の計画は読者にも明かされない、まさにブラックボックスなところが本作の面白さの1つに感じた。    章北海はサブ主人公のようなポジションで覚悟と信念に染まった魅力のあるキャラクターだ。  彼は人類にとって重要な役割を果たし、最終的には「暗森理論」の裏付けとなる事件に立ち会うことになる。そして独断で導き出した結論から、彼は自ら面壁者のように振る舞い、読者を驚かせた。  上巻の前半にあった「二人が最も接近したのはこの瞬間が……」といった文章から、どこかで羅輯との接点が生じて物語が大きく動くものと期待したが、最後まで2人が直接交わることがなかったのは少し残念だった。  結果章北海の考えは正しく、人類文明はどうあがいても技術的に三体文明には勝てないことが判明する。水滴を確保するロボットアームの描写はまるで猿がスマートフォンを拾っているように思えて、三体文明の嘲笑が聞こえてくるようであった。  作中で人類社会は悲観や、混乱、楽観、絶望などコロコロと顔色を変えて忙しそうにしている。  こういったSFで「共通の敵を前に団結する人類」というファンタジーが突拍子なく出てくると個人的に興醒めするのだが、本作では三体文明という共通の敵が現れてもなお政治や陰謀の尽きない人類らしさが描かれてよかった。こういったところに、もしかしたら中国人ならではの政治に対するシビアな視点が現れているのかもしれない。  黒暗森林理論はフェルミのパラドックスへの解答の1つとして本作の重要テーマとなっている。  個人的にはゲーム理論のようにも感じた。  理論の重要なファクターである猜疑連鎖は、葉文潔自身が経験したものでもあり、全ての始まりである前作の文革描写との繋がりが見られる点が美しい。SFとしてのアイデアと中国人ならではの感性が融合した、今までにない作品なのだと感じた。
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