ごうき "すべての、白いものたちの" 2026年3月9日

ごうき
@IAMGK
2026年3月9日
すべての、白いものたちの
すべての、白いものたちの
ハン・ガン,
斎藤真理子
「私はあなたにきれいなものを見せてあげたかった。残酷さ、悲しみ、絶望、汚れ、苦痛よりも先に、あなたにだけはきれいなものを。」 美しい精神である。「白」は「私」にとって清きものの象徴であり、日常に溢れる「白」を切り取る行為そのものが、鎮魂となる。 本作に対する第一印象として、平易だが現実的な文体と「白」というテーマ、更には途中途中で挿し込まれている写真が相まってとても詩的に見えるというのがあったが、その実、とても小説的で1つのストーリーとして読者の受け皿となる作品であった。 この作品は、いかに死を生に昇華させるかという試みから作者自身の訣別・哀悼を一直線にしたものである。「姉という生を断絶してしまった存在の魂を自身の中に取り入れることにより、姉の生を実現する」という発想はありそうでなかったもので面白い。けれども結局、それは実現できず、我々生者は死者を弔い、前を向くしかない。本作は生の力強さを表象することなく、静かにその現実を突きつける。 私は最初、「死者への哀悼と、死者と訣別して生きること」という点から堀辰雄の『風立ちぬ』を連想した。しかし本作が『風立ちぬ』と異なる点は、一貫して、死者が生者として存在しないことにある。哀悼を捧げる「姉」は、常に死者として描かれる。そのため、対比としての生の力強さは薄くなる。これはどちらが優れているという話ではなく単に「生と死」というテーマのベクトルの向きが違うだけであろう。 余談であるが、この作品を読むにあたって、私は初めて文章に線を引き、頁に付箋を貼った。最初、そうすることでより多くのものを作品から吸収しようと思ったが、別段そうもいかなかった。とはいえ、再読する際にそういう目印があると面白いだろうから、今後も積極的に続けていこうと思う。
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