muma
@casa_muma
2025年12月7日
東京奇譚集
村上春樹
私が大好きな短編が多く入っている。東京奇譚集。
どこであれそれが見つかりそうな場所で
p129-130
「足は疲れない?」
女の子は私の質問には答えなかった。「ねえ、おじさん、このマンションの階段についてる鏡の中で、ここの鏡がいちばんきれいに映るんだよ。それにおうちの鏡とはぜんぜん違って映るんだ」
「どんな風に違ってるわけ?」
「自分で見てごらんよ」と女の子は言った。
私は一歩前に出て鏡に向かい、そこに映る自分の姿をしばらく眺めてみた。そう言われて見ると、その鏡に映った私の姿は、いつも私がほかの鏡の中に見ている自分の姿とは少しだけ違っているような気がした。鏡の向こう側の私は、こちら側の私より少しふっくらして、いくらか楽観的であるように見えた。たとえばまるで温かいパンケーキをたっぷりと食べたあとみたいに。
